“パテ不要、無塗装、早くて安い”は大丈夫なのか
ワタクシ、編集部ヨネザワの友人、東京都文京区に住むS君の自宅は、車幅の大きいミニバンがようやく通れる程度の道の奥まった先にある。クルマを車庫に収めるには、最低でも10回の切り返しが必要だ。
そんな先日のこと。彼はクルマから荷物を取り出す際、うっかり物入れ小屋の支柱にドアを当てて凹ませてしまった。長さにして10cm、深さは0.5cmほど。すぐにディーラーで修理の見積もりをしたが、提示金額は、なんと13万5000円。若いサラリーマンにとっては数ヶ月分の飲み代であり、あまりにも痛すぎる額だった。
さて、ドアパンチや軽い接触の修復方法として一般的なのは”板金修理”というもの。周辺部品を取り外し、元の塗装を剥がし、鉄板を叩いたり引っ張ったり、あるいはパテ埋めして再塗装する。一見、キレイに直ったように見えても角度によっては塗装面が微妙に波打っていたり、塗装表面の微小な凹凸(ユズ肌)がチグハグに見えてしまうこともあり、査定などでマイナス評価の対象になる可能性もある。代車があればいいけど、修理の間はクルマがないから不自由この上ない。
そんな時、ふと思い出したのが、かつて小耳に挟んだことのある”デントリペア”。ワタクシは幸いにもクルマをブツけた経験はないので、興味なかったし、詳しいことも知らない。
ネットで調べているうちにわかったことは料金が安く、ほとんどのケースが短時間で直って、再塗装もしないで済むということ。上手いかどうかはわからないが、早くて、安いことは間違いないらしい。いったいどんな修理なのか専門店を訪ねてみることにした。
向かったのは千葉県・柏市の「デントリペアワークス」。さっそく許可をもらって代表の金枝弘尚(かねえだ ひろひさ)さんの作業を見学させていただいた。実演車両として用意されていたのは、左ドアのプレスラインがわずかに凹んだスズキ・エブリイ。
金枝さんが持ち出してきたのは、先端が曲がった怪しげな細い棒状の専用工具。どう使うのか見当もつかなかったが、「凹んだ部分を裏から押し出して成形する」という。なるほど、理屈は単純だ。しかし実際の作業を追っていくと、これがなかなか難しそう。
手順としては、窓ガラスの隙間から工具を挿入し、工具の先端部を手首で巧みにコントロールしながら凹みに近づけ、テコの原理を利用しながら凹みを押し上げていく。まさに経験と勘がモノをいう職人の技だ。力加減のわからない素人だと、逆に凹みを膨らませてしまうらしく、長さ約1cmの浅い凹みが、あれよあれよという間に復元しているではないか。時間にして10分足らず。確かに、早い。
「裏から突く強さが重要。強すぎれば塗装にヒビが入ったり、弱ければ鉄板はしなるだけで形状が変わらず直りません。微妙に力をコントロールしながら少しずつ押し出していくことで、塗装にダメージを与えず、元のボディラインに戻すことができるのです」と金枝さん。
しかし、ここで疑問。”棒”が入らないところの修復はどうしているのだろうか。
工具が入らない場所も修復が可能
さきほどの疑問を結論からいうと、棒状の工具が入らないような場所もとくに問題なく修復が可能という。例えば、屋根(ルーフ)やボディとルーフをつなぐピラーなどは、袋状になっていて、ほとんどの場合、凹みの裏側への工具のアクセスが不可能。この場合、“プーリング”と呼ぶ、パネルの表面から凹みを引っ張る方法で修復。今回、ルーフピラーが歪んでしまったVWゴルフで試していただいた。
まず、“タブ”と呼ばれる樹脂製のピンをパネルに溶着。それをリフターという専用工具を使ってグイグイ引っ張りながら整形を進めていく。簡単そうに見えるが、金属製のリフターはそこそこ重さがあり、凹みの形状や深さ、どの部分に応力が加わっているかを的確に把握しながら力加減を調節、元のパネルラインに戻していくデリケートな作業だ。
凹んだ鉄板を引っ張り、わずかに凸状になったらところで、先端が柔らかい樹脂状のポンチをハンマーで叩き、少しずつならしていく。この「引っ張る」「叩く」をひたすら繰り返すことで元のラインに復元していくのだ。
金枝さん曰く「裏から凹みを叩き出す作業と違って、プーリングは塗装が剥がれてしまうリスクがあるので、とても神経を使います。したがって、塗装が劣化しているなどのクルマにはおすすめできませんね」とのこと。
実際に仕上がったルーフを見れば、どこに凹みがあったかわからない仕上がり。費やした時間はおよそ3時間だった。
塗装の弱い旧車でも作業は可能
ここまでの作業で、気になったことをいくつか金枝さんに質問をしてみた。
Q1.今回施工を行なった2台はどちらも鉄(スチール)製だが、アルミや樹脂といった異なる素材でもリペアは可能なのだろうか?
A.「基本的に金属以外の材質はデントリペアができません。ホンダNSXのようなアルミボディは可能ですが、樹脂パネルは諦めてください」。
Q2.金属ボディでも施工できない箇所はあるの?
A「ルーフはプーリングで修復できます。車種にもよりますが、地面に近いサイドシルのような箇所は、作業で欠かせない専用の照明の光が届きにくく、難しいですね。施工の可否は店舗によっても異なるので、事前に問い合わせたほうがいいかもしれません」。
Q3.どの程度のダメージまでなら修復が可能なの?
A.「ほとんどのケースで目立たなくすることはできます。ただし、鋭角で力が加わっての凹みの場合、“シャープデント”と呼んでいますが、微小な凹み(ポッチ)は残ってしまいます。板金塗装とデントリペアで、どちらが安く、キレイに仕上がるか気にされる方が多いですが、広範囲の凹み・歪みの場合、板金のほうが安く直る場合もありますので一概にはいえません」。
なるほど。迷ったら両方の見積もりを取ったがほうがベターということだ。
Q4.最近の新車塗装は品質がいいためデントリペアによるダメージはほぼないというが、塗装自体がモロかったり、劣化している旧年式車ではどうだろう?
A.「基本的に問題ありません。40年以上前のスカイライン(ハコスカ)に施工したこともあります。ただ、先にも触れましたが、プーリングはオススメできません。塗装が剥がれてしまう可能性があるからです。逆に裏から凹みを叩き出す方法であれば、過去の板金塗装でパテを盛った箇所でも修復は可能ですよ」。
なお、今回取材したデントリペアワークスの場合、長さ1cm未満の凹みで1カ所・1万円程度、概ね10cmで3万円程度が基本料金。輸入車やアルミパネル、あるいはドアなどの内張りを剥がす作業が加わっても料金は一律で割増はないという。もちろん車両保険を使える。
ちなみにデントリペアの利用者はドアパンチのほか、洗車や整備などの際にパネルを凹ませてしまった人が大半だというが、夏場に多発する雹(ひょう)による被害者も多いとのこと。
取材から戻ってきて、S君に早速デントリペアのことを教えてあげた。なにより「ディーラーの見積もりより断然安く直せるかも」という報告に彼は大興奮。電話の向こうで鼻息を荒くしているのがわかる。
大きく節約できる可能性を秘めるデントリペアの存在。修復できる限界や通常の板金と値段が変わらないケースが稀にあるものの、知っておいて損はないだろう。
【詳しくはこちら】
デントリペアワークス
千葉県柏市松ヶ崎1156-2
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