インフラからの情報で精度アップ
実験車両は、前述の通り、信号や交差点といったインフラからの情報も携帯電話などに使われるLTE通信を介して取得。公道を走ることを前提とした自動運転バスは、当然だが“止まれ”の赤信号や“進め”の青信号、“注意”の黄色信号や右折信号など道路法規を守って走る必要がある。従来、この手の実験車両では、信号の認識は車載カメラで行なっていたが、逆光や障害物で認識しづらい場合があるという問題があった。
そこで、今回導入したのが信号機から通信で直接情報を入手する方法。これにより、バス側は信号の切り替わりなどをより正確に判別することができる。なお、実験では、走行ルート中にある5台の信号機を通信機能付きタイプにしてバスと連携。赤信号で停止中に、あと何秒で青信号に切り替わるかといったこともモニターで表示されていた。
一方、交差点に設置したセンサーは、今回の場合は交差点を右折する際に対向車の動向を判別するために使用(写真下の信号左上のボックスがセンサー)。これにより、2018年の前回実験ではドライバーが手動で行っていた右折まで、自動運転で行なうことが可能となっている。
交差点の右折レーンで“カックン”
そこまでは、かなり進歩が見える実験車両だったが、交差点の右折レーンへの進入時にちょっと気になることがあった。
レーン内には先に他のクルマが止まっていたためバスはその後ろに停車。その後、前車が交差点へやや前進しすぐに停車するというよくあるレーン内の動きに対し、バスも車間を詰めるため前車に自動で追従しようとしたのだが、止まる時にブレーキがグッと効き過ぎて、座っていても感じるほど車体姿勢が前方へ。いわゆる“カックン”ブレーキだ。前車がさらに少しだけ進み止まると、バスも再び進んで“カックン”と止まるといった挙動を再三見せていた。
車体の挙動は、速度が2〜3km/hと低かったこともあり、座席に座っていれば問題ないレベルだったが、立っていたら上体が前へもっていかれ、場合によってはバランスを崩すことも考えられる。路線バスでは、立っている乗客や車いすで乗車している人がいることも想定できるので、こういったブレーキ制御については改善が必要だと感じられた。
また、江ノ島内の道にある横断歩道手前で一時停車する設定だったが、一旦止まり再発進しようとしたタイミングで、歩行者が急に横断歩道を渡り始めた際にも急停車に近い“カックン”ブレーキ連発。
これについて、技術関連の担当者は、試乗後の質疑応答で、「歩行者の急な飛び出しなどに対し、どれだけ早く車両が認識するかについては、課題も残る」とコメント。安全面についても、公道ではまだまだ改善の余地があることを語った。
車内監視システムも搭載
ちなみに、実験車両には、フロントガラス上部にモニターが設置されおり、乗客の様子を写しだしていた。これは、SBドライブが開発中の遠隔運行管理システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」の映像。同システムは、車両から離れたデータセンターなどにいる遠隔運行管理者が自動運転中の車内を常に監視するためのものだ。
主な仕組みは、車内に設置した数台のカメラからの画像情報がデータセンターへ送られ、AI画像認識システムがそれらを基に乗客の様子を常に監視。例えば、運行中に乗客が立ち上がり移動した際に転倒の危険がある場合には、管理者が車内にアラートを出して注意を促すなどで、ドライバーがいない自動運転バスにおける安全上の管理を行う。
さらに、実験では8月26日からセーリングワールドカップシリーズ江の島大会が開催されることもあり、一般から募った参加者の試乗も予定。車内に車掌が同乗することでサービス面の検証も行なう。
いかに車両が安全に自動運転をできるようになったとしても、例えば高齢者や障害者などが乗降する場合の補助は必要。その意味でこの試みは、実際に運用する際には当然必要となるサービスのひとつだといえる。
今回は、車掌に扮したスタッフが、ルート上にあるバス亭で乳母車を車内に乗せるのを手伝った後、安全確保のためロープなどで乳母車を固定する実験を実施。車掌の役割は、ほかにも乗客乗車時の本人確認や、不測の事態などの際に車内外の安全確認を行なうなどを想定しているそうで、これらにより車内でリアルタイムに必要となるサービスの充実を図るという。
自動運転時間は格段に伸びた
前回の実験では、特に江ノ島内の狭い道路の路肩に路上駐車車両が多く、それらを避けるためにドライバーが手動に切替える場面が多かった。その点、今回は、走行ルートの距離は前回の約2倍だったにも関わらず、ほとんどの区間で自動運転をしていた印象だ。これは、制御ソフトのアップデートなどで自動運転機能が向上したことは間違いない。ただし、江ノ島内の道路に関しては、今回は路肩にコーンを設置し路上駐車ができないようにしていたため、一概に技術面の成果だけとは言い切れないだろう。
人などの認識やブレーキの細かな制御など、自動運転バスの実用化にはまだまだ課題もある。だが、今回試乗した印象では、空港や商業施設などの限定エリアで人や他車がいない道での運用なら、急な飛び出しなど不測の事態が少なく、意外に実用化の時期は早そうな気がする。
自動運転バスは、公共交通機関の路線数減少などが問題となっている地方の過疎エリアなどで、高齢者など住民の「生活の足」としての運用も期待されている。だが、今回試乗した印象では、公道での活用にはもう少し技術面での進歩が必要だと感じた。
サービス面や導入コスト、運用地域の自治体との連携など、他にも乗り越えるべき問題は多いだろうが、まずは“乗客が安心して乗れるクルマ作り”が先決かもしれない。