空気の流入量を抑える規定が低馬力の要因
このようにPWRCの設立で進化を続けたグループNの最強マシン、N4クラスのスバル・インプレッサと三菱ランサーだったが、エンジン出力はノーマル車両よりも低かった。
理由は、FIAがエンジンの開発競争を抑制すべく、N4クラスに吸気を制限するためにリストリクター装着を義務化したからだ。リストリクターは、エンジン吸気口などに純正より口径が小さい穴を開けたプレートを使うことが一般的だが、その口径はPWRC設立当初で32mm。2010年からは33mmに若干緩和されたが、それでもノーマル車両よりパワーが制限されていた。
2005年および2007年のPWRCでチャンピオンに輝いた新井選手によれば「当時のGDB型インプレッサはノーマルの最高出力スペックは280psでしたが、グループN車両は32mmのリストリクターが装着されていたから260psぐらいでしたね」とのこと。
さらにカタログ数値で308psの最高出力を誇るGRB型WRXも、新井選手の証言によれば「32mmのリストリクターをつけると最高出力は260ps。2010年から33mmのリストリクターになったけれど、それでも最高出力は290psぐらいでしたね」という。
つまり、グループN車両はベースよりも最高出力で劣っていたのだが、いざSS(スペシャルステージ)に向かえば、グラベルはもちろん、ターマックでも格上のスポーツカーを凌駕するほどの運動性能を発揮。では、パフォーマンスの秘密はどこにあったのだろうか。
前述の新井選手によれば「エンジン制御でトルクが太かった。GRBで60kg・mぐらいあったからラリー競技に合っていたし、ギアボックスもドグミッションだったからシフトワークに無駄がなかった」と分析する。
直線が伸びない分コーナーが速かったランエボ
一方の三菱。ランサー・エボリューションを武器に、2004年から2008年のPWRCで活躍した奴田原文雄選手もこう語る。
「ランサーもリストリクターの影響でパワーが制限されたから直線は伸びなかったけど、トルクがあったし、ボディ剛性やサスペンションのキャパシティも高かったから、コーナリング性能が非常に優れていました。ランサーは、ACD(アクティブ・センター・デフ、ランエボに搭載されたハンドル角と車速から車体姿勢を制御する機構)の制御を、ノーマルより煮詰められたことも大きかったですね」。
こうしてリストリクターで最高出力を制限されながらも、トルクの拡大やボディ補強、サスペンションの改良で、スバル、三菱のN4マシンは抜群の運動性能を発揮したのだ。
2013年にFIAがグループR規定を導入したことから、N4をはじめとするグループNは国際ラリーから姿を消していくが、1990年代後半か2012年にかけてスバル、三菱のN4マシンが最強のカスタマーマシンとして黄金期を築いていたのだ。