飛行させる意義と安全性を十分に考察すべき
SF映画などでよく目にする「空飛ぶクルマ」だが、最近のニュースなどではそれが近い将来実現すると言われている。電動で飛び、垂直離着陸が可能、しかもパイロットがいないというこの新しい乗り物は、まずは欧米で注目され、近年では日本でも国や企業などで実用化の検討が進められている。では、実際どんなもので、どんな用途で“飛ぶ”のか。成り立ちや現在の検討内容、実用化の課題などを考察してみる。
ドローンの大型版が物流の人手不足を解消?
空飛ぶクルマとは、正式には「電動 垂直離着陸型 無操縦者 航空機」を指す。英語では、よくeVTOL(イーブイトール、electric vertical takeoff and landing aircraftの略)という言葉が使われている。
どんなものかを簡単に説明すると、ヘリコプターなどのように垂直に離着陸でき、滑走路など大型の設備を必要とせず、電動で回転する翼によって空を飛ぶことにより、無人操縦で人や物を運ぶことのできる乗り物だ。さらに咀嚼すれば、ドローンの大型版といえるかもしれない。
これまでの航空機やヘリコプターは、免許を持ったパイロットが操縦するなど専門家が運航する空の移動手段だった。それを、より身近な形で利用できるようにしようという狙いがある。
背景にあるのは、世界的な人口増加と都市化の波であり、これにより、従来はあまり渋滞の心配のなかった欧米においても、クルマを使った移動や物流に支障を生じるようになった。同時にまた、公共交通や物流においては運転者の人手不足などもあって、それらの課題を一気に解消できないかという新提案である。
国内において活用が期待されている分野は、物流、過疎地など地方での人の移動手段、都市の移動(渋滞解消)、災害、救急、娯楽など幅広い。
具体的には、荷物の運搬に使う空飛ぶトラック、地方における高齢者の足や都市部での渋滞緩和策としての空飛ぶタクシー、災害時に怪我人などを病院へ運ぶ空飛ぶ救急車など、現在様々な用途が考えられている。
2023年の実用化を目指し欧米の動きに追従する日本
ここ数年、米ウーバー・テクノロジー社や欧州のエアバス社などが開発したことにより、空飛ぶクルマはまずは欧米で実用化についての話題が盛り上がった。国内においても、経済産業省が2018年に「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、議論を進め、問題点の洗い出しや実現性について見極めようとしている。
同省では、昨年末に実用化へのロードマップを発表し、2023年頃に実用化させ、2030年代には活用分野を拡大させる目標を掲げている。
ほかには、慶應義塾大学をはじめとする多くの研究機関で研究開発が進められている。企業では、かつて軽飛行機“エアロスバル”を製造したことでも知られるSUBARUや、ヤマハ、デンソーなど、自動車業界で馴染みの大手企業も手を打ちはじめた。自動車分野以外では、電機メーカーのNEC(日本電気)が2019年8月にeVTOLの試作機を発表し、SKY DRIVE社といったベンチャー企業も2018年12月に試作機の実験を行うなど、多くの企業が市場参入に積極的な動きを見せている。