ディテールでの表現で十分な効果を発揮する
自動運転や電動化が進む自動車業界だが、クルマのスタイリングについては温故知新的なテイストは一定の評価を受けている。けっして懐古趣味ではなく、古き時代を知らない世代にとっても温かみのあるスタイリングは魅力があるという。そんなレトロ調のスタイリングが気になる現行国産車をピックアップしてみた。
ステップバンを思い出させるホンダN-WGN
まずは、2019年8月に発売されたばかりのホンダN-WGN。いわゆる軽自動車のど真ん中といえるハイトワゴンのニューモデルは、どこか懐かしい表情を見せる。とくに標準系の丸目ヘッドライトの上に横長のウインカーを配置したフロントマスクは、軽自動車が360ccだった時代にカスタムベースとして人気を博した「ライフ・ステップバン」を思わせるものだ。
ホンダは、関連性をアピールしてはいないが、間違いなく軽自動車のヘリテージを感じさせるフロントマスク。開発陣からは、これまでのN-WGNはライバルと識別しづらいスタイリングだったという声も聞かれた。けっしてレトロ調を前面に押し出しているわけではないが、ホンダらしいスタイリングを得たことで新型N-WGNが軽自動車のなかで埋没することなく、明確な個性を手に入れたといえるのではないだろうか。
初代ジムニーの雰囲気を残すスズキ・ハスラー
つづいて紹介するのも軽自動車。スズキのクロスオーバーSUV「ハスラー」だ。こちらは2013年12月にデビューしたモデルで、けっして新しいわけではないが、どこか懐かしいレトロ調のスタイリングのおかげで、古さを感じない。
そのスタイリングもなにかをモチーフにしたとは明言されてはいないが、「ハスラー」という名前自体が1960年~80年代にオフロードバイクのブランドとして展開していたこともあって、懐かしい名前がSUVのイメージと合致した。
また、スタイリングでは丸いヘッドライトとウインカーを組み合わせた灯火の意匠は初代ジムニー(SJ10)を思い起こさせるもの。フロントグリルの上にアルファベットで車名を記すというディテールも初代ジムニーが「SUZUKI」と抜き文字で表現していた手法を思わせる部分だ。
さらに前後フェンダーのキャラクターラインで初代エスクードを感じさせるなど、こちらも自社のヘリテージを活かしたスタイルだ。なお、スズキではリッタークラスのSUV「イグニス」でもエスクードやフロンテクーペといった過去の名車の特徴をモチーフとしたディテールを採用するなどレトロ調を上手に使えるメーカーといった印象がある。プロダクトの存在そのものがレトロ調といえる「ジムニー」などは、まさにスズキに面目躍如といえるモデルだろう。
伝統の丸4灯が復活、日産スカイライン
最後は2019年9月にビッグマイナーチェンジ版の発売が始まった日産スカイラインだ。マイナーチェンジ前には同社の高級ブランド「インフィニティ」の一員であることをアピールしていたが、”プロパイロット2.0″と名付けられた最新の先進運転支援システムを採用したマイナーチェンジ後では「日産」の伝統的なモデルであることを再アピールしている。
その象徴といえるのが丸4灯テール。ケンメリスカイラインのときから伝統となっている丸4灯テールを復活させたことは、グローバルモデルにスカイラインという名前をつけただけではなく、そのスピリットがしっかりと蘇っているという自信が感じられる。
また日産でいえば、フェアレディZの期間限定モデル「50th Anniversary」では初代モデルがモータースポーツでまとったワークスカラーを彷彿とさせるスタイルをデカールで再現しているのもレトロ調の手法として見逃せない。伝統のあるモデルだからこそ、ディテールでの表現で十分な効果を発揮するということだろうか。