普及の進む軽自動車の福祉車両
100歳の時代といわれるように、人の寿命が延びている。また、障がい者の就労を促す動きもある。そうしたなか、生活や仕事をするうえで移動の重要性が注目され、福祉車両の充実がはかられるようになった。「国際福祉機器展(9月25日〜9月27日・東京ビッグサイト)」では、低価格で手に入りやすい軽自動車の福祉車両が多くみられた。
回転シートで乗降の負担を軽減する
中心となるのは、ハイトワゴンや、ハイルーフのワンボックスなどの軽自動車。
歳を重ねるごとに、日常的には元気に生活をしている高齢者でも、クルマへの乗り降りでは体が曲げにくかったり、足に力を入れにくかったりし、苦労することが多い。そうした場合に手助けとなるのが、助手席の回転シート。手動で回転するという簡便な方式から、自動で回転し、座席位置も少し下がって道路に降り立つのを助ける電動仕様もある。
たとえば、スズキ・ワゴンRやワゴンRスティングレーの昇降シート車や、ダイハツ・ムーヴのフロントシートリフト車、ホンダN-WGNの助手席回転シート車がそれにあたる。
これらは福祉車両に位置付けられるけれども、一般的な標準車に近い存在であり、助手席の回転機能を必ずしも使う必要もないため、日常的に使える福祉車両でもある。
車いすのまま後席の乗り降り可能
ほかに、車いすに座ったまま後席部分に乗せることのできる軽自動車も注目が集まった。後ろのハッチバックを開け、スロープを引き出し、介護者が車いすをスロープにそって押しあげ、車内へ乗り込むというもの。
車いすを引っ張るウインチを装備することで、それほど力を必要とせず車内に車いすごと入ることが可能。また、ウインチがあることで、クルマを降りる際にも急に滑り降りる心配がなく、介護者が押さえ込まなくてもゆっくりと下りられるので、車いすの人も安心だ。
このタイプでは、車いすで乗る人の頭上空間にゆとりが必要になるので、スーパーハイトワゴンやワンボックスのハイルーフなどが適しているそうだ。スズキ・スペーシアやダイハツ・タント、ホンダN-BOXなどのほか、ワンボックスでは、スズキ・エブリイ、ダイハツ・アトレーといったところだろう。
このうち、スズキ・エブリイワゴンの場合は、分割式の2列目の座席を一席残すことで、車いすで乗車した人の横に座って話をしたり、介助したりすることもできる。
踏み間違いを起こしにくいペダル配置
福祉車両だけでなく、軽自動車でのペダル踏み間違いなどを起こしにくくする取り組みを、ホンダは行なっている。新型N-WGNから、軽自動車における運転姿勢の改善が進められた。
まず、アクセルとブレーキのペダル配置を、従来に比べやや右寄りにすることで、運転姿勢をより正対させるようにした。さらには、アクセルとブレーキのペダル段差を少なくし、踏み替えの際に足がペダル脇に引っ掛かりにくくしている。
そして、ハンドルの位置調整に、これまでのチルト(上下位置調節)機構に加え、テレスコピック(前後位置調整)機構を装備。
また、軽自動車は小柄な女性でも運転しやすいようにと、ペダルとハンドルの位置が設計されてきた。これにより、身長の高い人が運転しようとすると、ペダルが近すぎたり、ハンドルが遠すぎたりしてきた。
それによって、ペダルが近すぎる場合には、ペダルの踏み損ないや踏み間違いを起こす危険があったのだ。あるいは、ハンドルが遠すぎることで危険回避しそこなう懸念もあった。しかしN-WGNの取り組みにより、そうした懸念が軽自動車から払拭されることになったのである。
着座姿勢の改善は、同じホンダのN-BOXと比較しても明らかで、販売店などで座り比べれば誰にでも体感できる効果をもたらす。この運転姿勢の改善は、体の動きが制約を受ける高齢者にとっても運転しやすくなり、ペダルの踏み間違いによる事故低減に貢献する可能性を秘めているといえるだろう。
正しい運転姿勢を実現するための、ペダル配置や段差の改善、そしてテレスコピック機構の軽自動車やコンパクトカーへの普及は、世界でもっとも高齢化が進むといわれる日本にとって、実は重要な課題といえるのである。