東京を離れてトヨタ・パブリカを愛でる
職業はアートセラピスト。鮮やかなチュニックに身を包んだ華麗な20代女子、カナさんの愛車は1968年式のトヨタ・パブリカバン(UP26V)。こう見えて、整備からカスタムまで全て自身でこなす、かなりディープな旧車フリークだ。
以前、東京で暮らしていた頃は、クルマどころか免許さえ持っていなかったという彼女。それがいまでは「将来は、身につけた整備の知識や技術を生かせる仕事をしたい」と話すほどになった。地方でできた友達の影響で好きになった自動車、そして夢中になった旧車。
「東京にいては、いまでもクルマの魅力を知らないままだったと思う。そして、空冷という貴重なエンジン構造について深く知ってみたい。そして後世に残したいと思うようになったのです」。カナさんにとって旧車は、過去を振り返るためではなく、未来を向いて生きるためにあるのだ。
彼女に出会ったのは、若者が集まって企画された懐かしくも新しいネオクラシックカー・ミーティング『Ollds Meet 2019』。クルマの国籍やカスタムレベルなど、細かいことは不問の旧車イベントで、エントリーしたビンテージ&オールドカーは、初回にして国産車は120台、外車含む全体で300台以上を数えた。
その一角を占めた“旧車女子”のコーナーは、クラシックカーイベントにかつてない風を吹かせた若い発想ならではのプラン。ピンクカラーのパブリカは、ひときわ注目を集めたのである。
旧車も自分らしく染め上げるのがカナ流
800(UP26V)のボディに700(UP10・16V)の
「ノーマルを大事するおじさまたちにとって、旧車を改造する私はとんでもないヤツ(笑)。でも、自由にクルマをイジる方が若い人にとって親しみやすく、旧車の魅力が次の世代にしっかり受け継がれていく気がするんです」。
もちろん、彼女の手によってメンテナンスされた愛車のコンディションはバツグン。50年以上前とは思えないエンジンルームに収まる、パブリカの800cc空冷水平対向2気筒エンジンも絶好調。カナさんの、オリジナル派に負けない旧車に対する気持ちや、愛車に対する思い入れの強さが感じられる。
工具一式を揃え、整備書を片手に、時には馴染みのエンジニアのアドバイスを受けながら彼女は、自らの手でバラし、オーバーホールし、再び組み上げる。そして、苦労の末に得られた知識や技術を、この希少なエンジンを後世に残すために生かしたいと考えている。
「こんなに個性的で魅力的なエンジン。このまま整備する人がいなくなっては絶対にダメでしょ」。ファッションではなく、心の底から旧車が好きな彼女の思いに揺るぎはない。
夢はクルマ好きが集まるガレージカフェを開く
パブリカは、荷物がたっぷり詰めるバン。イベントへは、ジャッキやスロープをはじめ、いざという時のための工具は必携だ。「積んでおけば、誰がトラブルになっても、助けてあげることができるから」。彼女にとってクルマ好きは、旧車乗りに限らず全て友達だ。
カナさんには”ガレージカフェを開く”という夢がある。よくあるギャラリースタイルではなくて、リフトや工具が備えられたレンタルガレージを併設する新しいスタイルの店だ。
「旧車に限らず、若いクルマ好きの人たちが、好きな時に好きなだけ、自分のクルマと触れ合えるガレージを作りたい。自分でやればコストも抑えられるし、クルマへの愛情も強くなりますからね」。
便利すぎる東京では必要と感じなかったクルマ、存在すら知らなかった旧車。地方に引っ越して数年。愛車のパブリカはもちろんクルマそのものが、彼女にとって欠かすことのできない存在になったようだ。