重配50:50にこだわってきたBMWもFFを採用
BMW1シリーズが、フルモデルチェンジによってFR(後輪駆動)からFF(前輪駆動)になったことが、一部のクルマ好きにはショックを与えているようです。すでに2シリーズのアクティブツアラーなどで前輪駆動のBMWは存在していました。
同グループとしてはFFであることがアイデンティティともいえるBMW MINIとのプラットフォーム共有を考えると、小型セグメントのモデルがMINIのプラットフォームを使うFFモデルになるというのは、理に適った経営判断といえます。逆にいえば、同じセグメントでFFとFRをラインナップするというのはある種の贅沢ともいえるのです。
後継モデルがFF化されたことでAE86は伝説に
たとえば、「AE86」の車両型式で知られるトヨタ・カローラ レビン/スプリンター トレノはスタンダードなカローラやスプリンターがFFとなったときに、スポーツクーペだけが従来のプラットフォームを利用したFRを採用。
さらにAE86の後継モデルであるAE92型がFF方式へと変わったことで、「ハチロク」という存在が再注目され、伝説になったといえるでしょう。とはいえ、実際に走り比べると、後輪駆動ならではの楽しさは別として、速さだけでいえばFFになったから不利ということはありません。
効率を考えるとFFになるのは自然な流れ
ドリフト走行のようなパフォーマンスではFRで圧倒的に有利なのは事実ですが、FFだからスポーツドライビングが楽しめないというわけではありません。むしろ1.6リッタークラスであれば軽さや駆動ロスの面で有利なFFのほうが速さでは勝ったりします。
また、FRではフロントに搭載されたエンジンでリアタイヤを駆動するために前から後ろに出力を伝達するためのプロペラシャフトが必要。しかし、FFではそれが不要になるためキャビン中央を貫くトンネルが小さくできます(マフラーなどが通るためトンネルをなくすことは難しい)。そのためキャビンが広くできるのです。
また、左右のリアタイヤに駆動を分けるディファレンシャルも不要ですからトランクスペースの確保にも有利。スペース効率の面からFF化というのは合理的で、とくに1980年代にはほとんどの国産車がFRからFFになりました。
いまからすると信じられないかもしれませんが、1970年代にはハッチバックタイプの軽自動車であってもFRは珍しくありませんでした。トヨタ・ヴィッツの前身ともいえるスターレットもFRだったりしました。当時はFRだということは当たり前であって、けっして”スポーティカー=FR”という図式ではなかったのです。
ただし、ファミリカーがFFになっていく中で、リアタイヤを駆動することの価値が再評価されていきました。だからこそ、ハチロクが伝説的になったのでしょう。
「フロントタイヤが操舵を、リアタイヤが駆動を担当するFRはクルマの自然な姿」といった声が増えていったのは、その時代と記憶しています。当たり前に存在しているときには気にしていなかったFRの価値が、FFが増殖する中で再評価されたのが1980年代だったといえます。
FRからFFを経て4WDに発展したブルーバード
余談ですが、4WDの評価やニーズが高まってきたのが1980年代後半。たとえば、日産のミドル級セダンであるブルーバードは、ずっとFRレイアウトを伝統としており、「SSS」というスポーティグレードで知られていましたが、1983年にフルモデルチェンジした7代目モデルにおいて初のFFモデルへと大変身を遂げました。
その「SSS」グレードには1.8リッターツインカムターボを搭載して話題となりました。基本的には4ドアセダンですのでFFになったことで居住性は向上したことも前向きに捉えられていたといえます。とはいえ、このクラスにおいてはFFでもFRでもない選択が誕生。それがフルタイム4WDで、1987年のフルモデルチェンジによってブルーバードのスポーティグレード「SSS」は、1.8リッターツインカムターボとセンターデフ式4WDを組み合わせたパワートレインを与えられました。
1989年にSUBARUが初代レガシィを誕生させ、そうした4WD賛歌の勢いはさらに加速。FFはパッケージの面で有利なレイアウト、FRはスポーティな古典的レイアウト、そしてハイパフォーマンスを狙うなら4WDというのが1990年代にかけての認識となっていったのです。