【サンパチ】スズキ・GT380(1972年)
スズキが1972年に発売したGT380は、その車名から愛称「サンパチ」で親しまれました。
ライバルは、ずばりカワサキの400SSマッハIIおよび名称を変えたKH400。サンパチもケッチと同じく、空冷2スト3気筒のロードスポーツでした。しかし、性格はかなり異なり、サンパチは独自のファンを築くことになります。
当時を知る人に話しを聞いたところ、口を揃えるように返ってきた答えが「とにかく乗りやすかった」。マッハやケッチが、ある程度回転を上げたところから一気にパワーが盛り上がってくる“ジャジャ馬”だったのに対し、サンパチは下の回転からモリモリと力が湧いて、そのまま高回転までつながっていくスムーズさが大いに評価されていました。
ラムエアーシステムを採用
サンパチのエンジンには、スズキ独自の最新機構が組み込まれていました。それが「ラムエアーシステム」です。これは、走行風をエアインテークなどからエンジン内に送り込むことで、より大きな出力を生み出すシステムのことで、近年多くのスポーツバイクに採用されています。
バイク好きの人の中には、「70年代にラムエア? 」と思われる方も多い思いますが、現代のスーパースポーツマシンで使われているものとは名前が同じだけでまったくの別物。シリンダーヘッド上部の走行風を導くための整流ボックスがその正体でした。これにより効果的にエンジンを冷却することを可能としたのです。
サンパチは371ccの排気量から最高出力38ps/7500rpmと、ライバルであるKH400と互角のパワーを持っていました。
マフラーは4本出しを採用
パッと見でサンパチがライバルKH400に勝っていた点がマフラーの本数。KHよりも1本多い4本出しとなっています。
これが実は、セールス的に大きなアドバンテージとなっていました。当時は、既にホンダのCB750FOURやカワサキのZ750が4本マフラーで4気筒の高性能を大きくアピール。これに対抗し、スズキもサンパチの兄貴分「ジーナナ」こと750cc水冷3気筒のGT750も4本出しスタイルを採用しています。
まだ、マフラー本数が性能の高さを表現していた時代でもあったわけです。当時の中免ライダーたちにとって、「4本マフラー」を持つサンパチは、憧れの大排気量への夢を重ねて見せてくれるマシンっだったというわけです。サンパチでは、中央のシリンダーから出るエキパイを途中で左右に分けて2本分としていました。
ギア段数の表示機能を先駆けて搭載
サンパチは1978年のB7型まで生産されています。写真のメーターはそのB7型のもの。サンパチは後期型と呼ばれる3代目のB3型から、メーターに走行中のギア段数を表示するギヤポジション・インジケーターというユニークな装備が自慢でした。
デジタルメーターを採用する最新オートバイでは数多く見られるようになった機能ですが、当時としては、と言うより2010年代になるまで搭載している車種はスズキ以外ではほぼありませんでした。
その後、サンパチは80年代にかけて、ケッチと合わせて夜のヤンチャなライダーたち(いわゆる暴走族)から絶大な支持を集めました。そのため、多くの中古車が原型を留めぬほど次々と改造されていったため、現在ではオリジナルを保っている良コンディション車はかなりの貴重品となっています。
【ヨンフォア】ホンダ・ドリームCB400FOUR(1974年)
ホンダは、1972年に中型排気量帯向けにドリームCB350FOURを発売しました。並列4気筒というハイメカニズムでライバルに差を付けようとしたのですが、これが思わぬ不振に。デザインもどこか地味でした。
そこでCB350FOURをベースに排気量を拡大。デザインは当時流行っていたカフェレーサーの手法を取り入れた鮮やかでスポーティなものとし、全面的に生まれ変わらせました。それが「ヨンフォア」ことドリームCB400FOURです。
ニックネームの由来はその車名から。ヨンフォアは登場したときもかなりの注目を集めたようですが、国内で人気が出たのは、むしろ生産が終了してからでした。
と言うのも、オイルショック後の余波もあり製造コストの高さがネックとなって、1974年末の登場からわずか2年ちょっとの1977年で生産を終了。ホンダはもっとコストの安い2気筒のホークシリーズにスイッチしてしまったのです。
中型クラスで乗れる4気筒は他になく、これでヨンフォアの希少性が一気に高まったのでした。
免許制度生み出した408cc版と398cc版
それではヨンフォアのポイントとなる部分の紹介です。まずエンジンは4ストの並列4気筒。当初の排気量は408ccで、最高出力は37ps/8500rpmでした。
実はヨンフォアには限定解除(現・大型自動二輪免許)が必要な408cc版と、中型限定(現・普通自動二輪免許)で乗れる398cc版の2つがあります。
デビュー時にはまだ限定解除制度が導入されていなかったのです。この免許制度改正に合わせて、1976年型から408cc版のIと398cc版のIIが登場したのでした。
集合マフラーの先駆
ヨンフォアは市販車としては初の集合マフラーを採用していました。それまでマフラーの本数が性能を示すデザイン上の役割を担っていましたが、この頃から集合管の優位性がそれを上回って認知されるようになり採用されるに至ったわけです。
管楽器のような弧を描くエキゾーストパイプは4-1タイプの集合方式を採用。当時を知る人によると、前身となるCB350FOURの4本出しに比べ、ヨンフォアは静かな音色を奏でていたと言います。
中古車市場では398cc版が人気
408cc版と398cc版の見分け方としては、408cc版はタンデムステップがスイングアームにマウントされ、398cc版はフレームマウントとなっています(ただし一部輸出用408cc版はフレームマウントあり)。
また、398cc版ではサイドカバーが車体色を問わずすべてブラック。当時も今も中古市場では398ccの方が人気でした。やはり中型免許で乗れるというのが大きな理由でしょう。
ヨンフォアが生産終了したあと、中型クラスで乗れる4気筒バイクは1979年春に発売されるカワサキZ400FXまでしばらくおあずけとなってしまったのでした。
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車両撮影協力:ウエマツ https://www.uematsu.co.jp/