強靱さとしなやかさを両立
SUBARU車のモータースポーツ&ワークスチューンを担う「STI(スバルテクニカインターナショナル)」。チューニングのテーマは体幹チューニング。最近よく耳にする”体幹”ですが、STIはクルマのプラットフォームを鍛えると走りがグッと良くなるという点に着目。人が体幹を鍛えると体の軸がぶれにくくなり、姿勢がよくなり、体を思い通りに動かすことができるようになるのと同じように、強靭でしなやかな車体を作ることで、安定した気持ちのいい走りができると言うのです。
STIがいま全力を傾けて参戦しているレースのひとつに、世界屈指の過酷なツーリングカーレース”ニュルブルクリンク24時間耐久レース”があります。コースは1周20km以上と長く、マシンには瞬発力よりも、コンスタントに速く周回を重ねることのできる「安定感」が求められます。
市販車をベースに制作された「SUBARU WRX STI NBR 2019」は、まさにそのノウハウがぎっしり詰まったレーシングカー。ここから得られた技術がSTIパーツに活かされているのです。
STIによれば、今回の試乗車はSUBARUの新世代プラットフォーム「SGP=スバルグローバルプラットフォーム」を採用した2台だけに、ボディの出来がよく、体幹を鍛えるといってもなかなか大幅な性能アップを望めないくらいなのだそうです。
そこで目を付けたのが、フレキシブルドロースティフナーと、サポートフロントキット。
「この補強パーツは、ステアリングギヤボックスの動きを止めるパーツです。SGPプラットフォームの性能はいいのですが、これによってステアリング操作に対してダイレクトに応答が出るようになります」とは、STI 開発本部長の森 宏志氏。
「ハンドルを切り出してからヨーレートが出るまでの時間差が17%短縮、横Gが出るまでの時間が14%短縮可能。時間はおよそ0.1~0.2秒ですね」。
今回の試乗車として用意されたのは、インプレッスポーツ2.0isとフォレスターX-BREAKをベースにしたSTIパフォーマンス・パッケージ装着車。 いずれもフロントリップ、サイドリヤアンダースポイラー等のエアロパーツとSTIフレキシブルタワーバー、STIフレキシブルドロースティフナー、STIサポートフロントキット(10月発売予定)などが装着されています。
ハンドル操舵する指先の動きに素直に応答
試乗してみると、体幹パーツの効果は明瞭。けっして鋭いわけではないのですが、ハンドルを切り出すとクルマ全体がスーッと曲がり出すような小気味よさがあります。ハンドルを切り出してクルマの向きが変わるのを待っている必要がありません。
クルマは速くないと刺激がない・・・・・・と一般的には考えられていますが、このクルマに乗ると、ゆっくり走ってもクルマは愉しい、というのを実感することが可能。試乗するまでは、特に重心が低く、操縦性の良さに定評があるSUBARU車だけにどれほどの違いがあるのだろうと、半ば疑っていましたが、そんな予見は一瞬にしてなくなってしまったのです。
もう少し詳しく説明すると、ハンドルを切り出した時のクルマの動きはあくまでも素直で落ち着いているのに、それでいながら指1本、いや半分の動きを忠実にクルマが反応してくれる。重心の高さなど一切感じさせずスルリと曲がってくれる一体感は、ちょっとビックリ。インプレッサもフォレスターもスポーツカー的な楽しさは当然期待していませんでしたが、いざ走らせてみると、穏やかなスポーツカーと言いたくなるくらい走るのが愉しいクルマになっていました。
フォレスターには、ノーマルの比較車も用意。乗り比べてみると、グレードどころか車格さえ一格違うのではないか、と思えてくるほどの違いがあったのも事実。
さらに微振動は少なめ。おそらくパフォーマンスダンパーの仕事なのでしょうが、前後のフレーム端に付けるだけでクルマの微振動をここまできれいに取り去り、質感の高い乗り心地を作り出していました。ストラットタワーの補強パーツ「フレキシブルタワーバー」も含め、中央部にダンピング機能を備え、強靱かつしなやかにしているのがポイントです。
もうひとつ感心したのはエアロパーツ。非装着車と比べ70km/h台からノーズの落ち着きがグッと高まってきます。高速道路での安定感は、間違いなく向上するでしょう。
このあと再びノーマルに乗り換えると「あれ、こんなにボディって揺れたっけ?」と思わず口に出てしまうほど差がありました。単独で乗ったら「これで十分でしょ?」と思えるほどSUBARU車はデキがいいのですから、なおさら驚きだったことを付け加えておきます。