新車時と何ひとつ変わらない状態
まず素性がハッキリしていることだ。1969年9月にブルーの内装に黄色いボディを纏い、ランボルギーニの工場から出荷された、今回のミウラはドイツのニュルンベルクで最初のオーナーであるウォルター・ベッカーの手に渡った。ベッカーは無類のクルマ好きで、多くのクルマをコレクションしていたという。
それから3年後の1974年。ミウラは二人目のオーナーであるハンス・ピーター・ウェーバーの元へ渡った。当時、ミウラを探していたウェーバー(兄弟)は、ニュルンベルクに黄色いミウラがあるという情報を聞きつけ、購入にこぎ着けるため、直接交渉に足を運んだという。
購入後、彼らはミウラをとても大切にした。野暮用では使用せず、特別な場所にしか運転をして行かなかったといわれている。ウェーバーが亡くなる2015年まで走行可能なコンディションを維持し、46年間の走行距離はわずか3万kmでしかない。
そして、重要なのがペイント、インテリア、エンジンがすべてオリジナルだという点。通常は塗装が色褪せてきたら再塗装、機関系の調子が悪くなれば部品交換、インテリアもまた、傷んでくれば部品交換や補修といったリペアを行なうのが一般的。しかし、新車時と何ひとつ変わらない状態だというのだから、おそらく、これ以上のコンディションは望めないはず。
いわば、はるか昔、子供の頃に買ってもらった高価なおもちゃが、新品のような状態で残っているようなものだ。
わずかに、フロントウインカーの交換とシュロス製のシートベルトが装着されている点がオリジナルとは異なるが、1971年からのドイツの登録証のほか、オリジナルの整備記録帳、当時の書類やランボルギーニ社からの手紙なども付属され、これだけでも十分な価値があるといわれている。
今回のオークションの出品にあたってウェバーの甥は次のようにコメントしている。
「叔父のハンスーペーターがミウラに乗って来るときは、着く数分前からエンジン音が先に聞こえてきました。ミウラに乗るときは、いつもクルマの色に合わせて明るい黄色のトップスと青いジーンズを組み合わせていましたね」。
また、「イタリア・クレモナにあるカール・ウェーバーの妻の家族を訪ねたときのこと。家族全員、目の当たりにしたミウラに大興奮し、80歳の祖父も含め、皆が代わる代わる助手席に乗って楽しみました」と当時を振り返る。
RMサザビーズ・ヨーロッパでトップを務めるマルタン・テン・ホルダー執行副社長は語る。「ロンドンで出品される今回の機会を逃したら、二度と同等のコンディションのミウラに巡り会えることはないでしょう。多くのコレクターにとって、今回のミウラは至宝以外の何物でもありません。2019年で13回目を迎えるロンドン・オークションに、このようなクルマを用意できたことを大変喜ばしく思っています」。
果たしてどんな落札価格がつくのか? その結果に、世界中のコレクターはもちろん、多くのスーパーカーファンから熱い視線が注がれる。