新車時からの素性がハッキリしている
10月24日、イギリス・ロンドンで行なわれるクラシックカーオークション会社「RM Sotheby`s(サザビーズ)」が主催する『ロンドンオークション』に、1台のくたびれたランボルギーニ・ミウラP400Sが出品される。
ボディの塗装はお世辞にも美しいとは言えない状態。エンジンルームや室内にもホコリが被り、新車時に放っていたであろうオーラは明らかに薄まってしまった印象だ。まったくクルマに興味のない人だったら、写真を見ても古びた車高の低いクルマが倉庫に放置されているようにしか思えないのかもしれない。
ところが、今回出品されるミウラP400Sの予想落札価格を見ると、このような車両状態ですら、1億1207万5848円から1億4009万4810円と高値が付くと予想。新車のようにレストアしないまでも、不動車ならばエンジンを完調にするだけでも、1000万円から1500万円ほどかかるといわれている。
余談だが、スーパーカーの王様ともいえる存在の1974年にデビューを果たしたランボルギーニ・カウンタックLP400(新車価格:約2000万円〜2200万円)の現在の相場は、9000万円から1億5000万円。そのライバル、1973年に登場したフェラーリ365GTB4/BB(新車価格:約2050万〜2100万円)の相場は4000万円から5000万円といった具合だ。
ミウラは、1966年から1973年まで生産され、P400、P400S、P400SVの3グレードが存在する。その中でも「中期型」と呼ばれるミウラP400Sは、シリーズ中もっとも生産台数が少なく、わずか140台しか生産されていない。
当時、ランボルギーニは日本に正規輸入されておらず、新車価格は自動車雑誌やスーパーカーカードなどには「1200万円」と記載されていた。これは往時の日本の最高級GTカー、1966年に登場したトヨタ2000GT(238万円)のじつに約5倍。つまり、現在の物価に換算すれば1億円近く。とんでもなく高額なクルマだったのである
そもそもミウラそのものが高額であることに、希少価値に加わり、2013年頃まで6000万円から8000万円という価格で流通していたミウラP400Sは、2014年に開催されたRMサザビーズが主催するアメリカのモントレーオークションで、極上コンディションの同車が126万5000ドル(約1億2811万円)の最高落札額を付けてからというもの、フルレストアが行われたモデルなら約3億円の値がついたこともある。
日本では週刊少年ジャンプで1975年から1979年までに連載された「サーキットの狼」に登場したスーパーカー、そしてスーパーカーブームを巻き起こした立役者の1台。当時、スタイルの美しさや、370馬力(P400S)の4リッターV12エンジンが放つ超弩級の性能(公称最高速度280km/h)に憧れを抱いたファンも多かったはずだ。
その当時の子供たちにミウラの印象を聞けば「仲間の一人や二人に必ずといっていいほど自動車の洋書を持っている人がいて、巻頭のミウラのグラビアを見て、ヨーロッパにはなんて凄いクルマがあるんだ! と驚き、興奮した」と、絶大なインパクトを与えた。それもそのはず。日本では、まだマイカーがカローラやサニーが当たり前という時代だったからだ。
しかし、コンディションが良好ではないにもかかわらず、1億円もの値が付く理由はなんなのか?
新車時と何ひとつ変わらない状態
まず素性がハッキリしていることだ。1969年9月にブルーの内装に黄色いボディを纏い、ランボルギーニの工場から出荷された、今回のミウラはドイツのニュルンベルクで最初のオーナーであるウォルター・ベッカーの手に渡った。ベッカーは無類のクルマ好きで、多くのクルマをコレクションしていたという。
それから3年後の1974年。ミウラは二人目のオーナーであるハンス・ピーター・ウェーバーの元へ渡った。当時、ミウラを探していたウェーバー(兄弟)は、ニュルンベルクに黄色いミウラがあるという情報を聞きつけ、購入にこぎ着けるため、直接交渉に足を運んだという。
購入後、彼らはミウラをとても大切にした。野暮用では使用せず、特別な場所にしか運転をして行かなかったといわれている。ウェーバーが亡くなる2015年まで走行可能なコンディションを維持し、46年間の走行距離はわずか3万kmでしかない。
そして、重要なのがペイント、インテリア、エンジンがすべてオリジナルだという点。通常は塗装が色褪せてきたら再塗装、機関系の調子が悪くなれば部品交換、インテリアもまた、傷んでくれば部品交換や補修といったリペアを行なうのが一般的。しかし、新車時と何ひとつ変わらない状態だというのだから、おそらく、これ以上のコンディションは望めないはず。
いわば、はるか昔、子供の頃に買ってもらった高価なおもちゃが、新品のような状態で残っているようなものだ。
わずかに、フロントウインカーの交換とシュロス製のシートベルトが装着されている点がオリジナルとは異なるが、1971年からのドイツの登録証のほか、オリジナルの整備記録帳、当時の書類やランボルギーニ社からの手紙なども付属され、これだけでも十分な価値があるといわれている。
今回のオークションの出品にあたってウェバーの甥は次のようにコメントしている。
「叔父のハンスーペーターがミウラに乗って来るときは、着く数分前からエンジン音が先に聞こえてきました。ミウラに乗るときは、いつもクルマの色に合わせて明るい黄色のトップスと青いジーンズを組み合わせていましたね」。
また、「イタリア・クレモナにあるカール・ウェーバーの妻の家族を訪ねたときのこと。家族全員、目の当たりにしたミウラに大興奮し、80歳の祖父も含め、皆が代わる代わる助手席に乗って楽しみました」と当時を振り返る。
RMサザビーズ・ヨーロッパでトップを務めるマルタン・テン・ホルダー執行副社長は語る。「ロンドンで出品される今回の機会を逃したら、二度と同等のコンディションのミウラに巡り会えることはないでしょう。多くのコレクターにとって、今回のミウラは至宝以外の何物でもありません。2019年で13回目を迎えるロンドン・オークションに、このようなクルマを用意できたことを大変喜ばしく思っています」。
果たしてどんな落札価格がつくのか? その結果に、世界中のコレクターはもちろん、多くのスーパーカーファンから熱い視線が注がれる。