サーキット走行も楽しめる快適なCRS
日産直系のスポーツブランド「NISMO(ニスモ)」は、R34型スカイラインGT-Rの生産終了後にリフレッシュと、ストリートからサーキット走行までを楽しめるエンジンを始めとするチューニングメニューを確立。それ以前からR32〜34型スカイラインGT-Rが搭載するRB26DETT型エンジンのリフレッシュ&チューニングも行なっていた。
そして現在は、登場から10年以上を経過するR35型GT-Rにも、同様のリフレッシュメニューを実施。果たして、古くなったクルマを甦らせるリフレッシュ&チューニングとは、どのようなものだろうか? NISMOセールスマーケティング部の碓氷さんにインタビューや、R35型GT-Rの2013年モデル(MY13)の試乗インプレッションをお届けしよう。
「今回は(スカイラインGT-Rの)R32、R33、R34、そしてMY08とMY13のR35GT-Rのクラブマン・レース・スペック=”CRS”を試乗車として持ってきました。CRSは10年くらい前にNISMOが展開し始めたものです。当時はサーキットでタイムを出すのが流行っていて、エンジンをチューニングしたり、Sタイヤを履いたり、公道を走るのが大変なくらい過激なチューニングをした方が多くいらっしゃいました。NISMOとしては普通にサーキットまで走って行って、サーキット走行を楽しみ、そのまま乗って帰れるようなクルマ、ということで始めたのが”CRS”。いまはR34GT-R(R34型スカイラインGT-R)のオーナーの方で『このCRSのデモカーと同じようにしてほしい』と言われる方が増えました」とはNISMOの碓氷さん。
第2世代GT-Rと呼ばれるR32、R33、R34のスカイラインGT-Rは、もっとも古い”R32″が30年以上前の1989年に登場。R34は2001年に生産終了されてから18年が経過。もはやコレクターズカーになりそうなビンテージに近づいている。
リフレッシュで現行モデル並みのパフォーマンス
しかも現行型のR35型GT-Rでさえ2007年秋デビューだから、もっとも初期のモデルは10年以上たっている。これまでNISMOではこのMY08~10を現行モデル並みのパフォーマンスに引き上げるチューニングメニュー=CRSを展開。今回、試乗車としてNISMOが用意したデモカーはMY13(13年モデル)。いよいよR35型GT-Rもチューニングメニューが展開されるわけだ。
「MY08~10は排気圧を制御するアクチュエータがMY11と異なります。そこでタービンをMY11用に交換。それで低速のトルクを稼ぐようなセッティングにして、カムシャフトはGT3用を使用することで高回転の伸びとピークパワーを高めています。今回の試乗車はMY13なので、タービンを交換しなくてもイケるはず。そこを今チェック中なんです」と碓氷氏。
その他のチューニングメニューもバージョンアップされ、サスペンションは”Nアタックパッケージ”という、オーリンズ製サスペンションをベースの4ウェイダンパーを装着。ミハエル・クルム選手がドイツのニュルブルクリンクでポルシェを驚愕させたラップタイムを出した時に装着されていたモデルと同じで、今回の仕様は影山正美選手が市販用にセッティングしたもの。試乗車には前後に機械式LSDが組み込まれており、これも込みのセッティングを施している。
このほか、フロントフェンダーがフィン付きにするなど空力パーツも一新。NISMOオリジナル・アルミホイールは、BBS製の新作(デモカーのMY08に装着)となり、125セット限定で販売されたそうだ。
550馬力を意のままに操れる高いコントロール性
さて、試乗車だが、もしかしたら今もっとも乗り易くかつアグレッシブに走りを楽しめるR35型GT-Rは、このクルマかもしれない。そう思えるほど速く、かつ走りやすかった。
なにしろサスペンションと前後デフのセッティングが絶妙。コーナーのターンインは非常にスムーズでノーズの重さを全く意識する必要がない。この時、コーナー入り口でアクセルオフや長めにブレーキを残すことで、リヤタイヤに軽い横滑りが作り出せる。リヤタイヤが滑り出したクルマの動きをカウンターステアで消さずにコーナー半ば過ぎまで我慢してアクセルを踏み込んでいくと、フロントタイヤがクルマをぐいぐい引っ張りながら、リヤは軽いテールアウト状態を持続させたまま、コーナーを立ち上がっていくことができる。
アクセルオフの加減やブレーキの残し方でリヤの滑り量をコントロールしてやれば、コーナー出口の姿勢も自由にコントロール可能。ゼロカウンターから派手なカウンターステアまで自在なのだ。しかも、スライドの仕方が素晴らしい。クルマが上下に揺れないからヒタッとタイヤが路面に密着しており、穏やかに滑り出す。もちろん多少の慣れは必要だが、不必要な緊張感をドライバーに与えないのだ。
オーバーホール+S1チューニングで550馬力/632Nmの強烈なパワー&トルクを発生しているが、それを自在にコントロールできる醍醐味を味わえる。それほどに一級品の完成度といえるだろう。
エンジンのピックアップもいいし、低中回転域のトルクに厚みがあるから、コーナーでギヤを「2速か3速か」と迷ったら躊躇なく3速でOKというくらいフレキシブル。乗り心地もいいし、さすがにふわふわな快適さは望めないが、不思議なくらい細かな凹凸を吸収してくれるので、試乗した工場出荷状態でも街乗りも快適にこなせてしまう。もちろん、調整機能を使ってさらに踏み込んだセッティングも可能だ。
年式が古くなって走行距離が延び性能が劣ったことで、一線から離れてしまうわけではなく、リフレッシュチューン+CRSを行うことで、現行型並みの性能を取り戻すことができる。それどころか、この乗り易さなら、自由自在にコントロールできる。ドリフトのおまけ(?)までついてくる。
R35型GT-Rオーナーにとってはうれしいチューニングメニューだと思う。