1978に年デビューした孤高のビックシングル
400cc単気筒エンジンを搭載するヤマハのオートバイ・SR400 40th Anniversary Editionが「2019年度グッドデザイン賞」に選ばれた。伝統のスタイルに、楽器作りをルーツに持つブランドならではの技工を凝らしたこの特別仕様車にスポットを当てつつ、不変の魅力を持つSR400の魅力を再確認したい。なお、受賞モデルは、10月31日から11月4日に東京ミッドタウンで開催される「グッドデザインエキシビション2019」で展示される。
楽器を思わせる美しい仕上がりの燃料タンク
雲間からうっすらと陽の光が差し込むような柔らかいグラデーションを描き、暖かみと落ち着きある美しさを醸し出すSR400のフューエルタンク(燃料タンク)。40周年記念モデル「ヤマハSR400 40th Anniversary Edition」には、ヴァイオリンやギターなど、楽器によく利用されるサンバースト塗装を職人の手作業でまとめるという、なかなか凝ったペイントが施されている。
そのタンクに添えられた三連音叉(3つの音叉の組み合わせ)の「ヤマハ」エンブレムは真鍮製。サイドカバーにはメッキ技術を応用した表面処理技術の電鋳(電気鋳造)によるSRエンブレム。昔ながらのオーソドックスなスタイルの中に、長年積み上げてきた作り手の想いがたっぷりと注がれている。時間が経つにつれ、味わいを深めるという、粋な作り込みだ。
1978年のデビューから実に40年。変らぬスタイルと変わらぬ性能で常に我々の傍らにあり続けたSR400は、オイルタンクを兼ねたセミダブルクレードルフレームに、空冷2バルブOHC単気筒を載せた(今となっては)クラシカルな組み合わせが魅力だ。
セルモーターが一般的になりつつあった発表当時から、エンジン始動はキックスターター(車体右側のペダルを踏み降ろす)のみ。そのスタート方式は、インジェクションを装備する現行モデルも変わらない。
キックペダルを軽く動かし、ピストン位置を探りながら、圧縮上死点を少し過ぎた位置で一気に踏み下ろす。この一連の作業は、いまやSR400の代名詞とも言える始動儀式である。エンジンをスタートさせるのにひと手間、ひとクセありそうに思えるが、インジェクションを装備する現代のSR400は以前のキャブモデルよりも実は始動が簡単。デコンプ機構の採用で、脚力の弱い女性でもエンジンをかけられるような工夫が凝らしてある。
試行錯誤でデザインを変えずに進化させた
外観に目を移せば、キャブ時代から変更されているのはカラーリングのみ。そう思えてしまうほど「そのまま」なSR400だが、実はフューエルタンク、サイドカバーともに、インジェクションモデル専用仕様。マフラーもキャタライザーを搭載し、形状が若干異なる。
なかでもフューエルタンクは開発陣の試行錯誤が見て取れるポイント。バイクの顔でもあるタンクデザインそのままでは、インジェクションに必要なフューエルポンプを内蔵させることができない。最終的に左サイドカバー内にフューエルポンプを内蔵した円筒形のサブタンクを設けることで、対応している。
空冷2バルブエンジンを環境対応させるための努力は実は外観にも及んでいるのだ。それを「変わっていない」と思わせてしまう技術とこだわり……ヤマハがいかに「SR400という存在を大切に考えているか」が感じ取れるところだ。
2度の製造中止から生き返った創意工夫のバイク
実際に走らせてみれば、ビッグシングルらしく、タタタタッと歯切れのよい、乾いた排気音を奏でながら軽やかに路面を蹴飛ばして行く。だが、回転フィーリングはとてもスムーズで、排気量の大きいシングルエンジン特有のガサツさはない。このあたりは今どきのインジェクション仕様らしい、とても上質なフィーリングだ。
低回転からスロットルを急に開けるような意地悪をしても、ギクシャクすることなく、タンタンタンと丁寧に回転を積み重ねながらスムーズにパワーが上昇。その様は、噴射量をち密にコントロールできるインジェクションならではだ。吸入負圧に頼るキャブモデルでは難しい場面も、難なくこなしてしまう。
トルク感も十分にあり、アクセルを開けた分だけしっかりエンジンが反応するため、乗っていてストレスを感じることがなく楽に走れてしまう。軽やかで歯切れのよい排気音を聞きながら、日常使用域で気持ちいい走りができるのは、これまで通りの美点だが、インジェクションモデルは燃焼感覚とトルクのバランスがより緻密になり、誰もが乗りやすいと思える仕上がりになっている。
過去に生産中止となること2回。しかし、その都度メーカー側の努力により復活を遂げてきたSR400だが、1980年代に多く見られた空冷モデルのほとんどは、排ガス規制が強化される中で生産中止となり、そのまま姿を消してしまった。
そのことを考えれば、作り手の継続の苦労も伺えるというもの。昨秋2度目の復活を遂げたが、そこには「ユーザーに育てられたモデルを、未来に紡ぎたい」というヤマハの想いが込められている。
「基本設計を40年間変えず、無理に新しくも懐古調にもせず、時を超えた深みを込めている。日本のモノづくりの在るべき姿を示している」、これが今回、SR400 40th Anniversary Editionがグッドデザイン賞を受賞した理由である。