フロア底上げで得た、型破りな極低フォルム
クルマの横で膝をつくと、フェンダーミラーのトップ部が、ちょうど肩の位置あたり。カスタムフリークが集うイベント(Ollds Meet 2019)の会場でも、その姿は周りに埋もれてしまうほど。若きオーナーである片岡信和サンが所有する旧車、日産フェアレディZ (S30)は、車高の低さが際立つ。
しかも、フェアレディZの初代モデル。型式”S30″はカスタムベースとして人気の高い旧車だが、じつは片岡サンの乗る後期型は車高が下げにくいタイプ。フロアの下を通るメンバーが大型で、思うようにローダウンすることができないのだ。
そこで、オーナーが打って出たのが、フロアを80mm底上げするという大胆なボディ加工。これによって愛車は、型破りなスーパーローダウンフォルムを手に入れたのである。
ただ、ひと口にフロアの底上げといっても、ボディのフルストリップからスタートした高難度なメニューで、実際にやり切るのは至難のワザ。単純にフロアを上げるだけでは低車高は完結しない。
例えば、アクセルペダルの短縮化を図ったり、デフのマウントに工夫をこらしたり。マフラーも、路面とのクリアランスを稼ぐために配管の取り回しからオーダーした特注品で、フェンダーは前後とも30mmアーチ上げ。”究極のシャコタン”を完成させるためのスペシャルなカスタムは、随所に及ぶ。
「イベントに参加すると、多くの人にボディの下を覗かれる。苦労した甲斐アリって感じですね」と片岡サンは嬉しそうに話す。しかし、S30Zのアピールポイントは車高ではない。この車高で満喫できる、走りの性能こそが自慢だ。
見た目優先の単なるドレスアップ仕様ではなく、走りを楽しむための本気のシャコタン。ボンネット内に収められた伝説のエンジンが、そのことを物語る。
心臓は10,000回転を許容するフルチューン
S30Zが搭載するパワーユニットは「OS技研」が開発・製造するL型ベースのツインカム4バルブエンジン『TC24-BI』だ。しかもこの”TC24ヘッド”は、30年以上前に9台のみ生産された希少な当時仕様というもの。
排気量は現行仕様よりも若干小さめだが、そのぶんレスポンスは鋭い。加えて、OS技研のTC24を知り尽くすチューナー(オフィストミタクの富松拓也氏)が手がけた、スペシャルなTC24-B1。当時のスペックを大切にしつつ、細部が現代の技術とパーツでアップデートされており、アクセルをほんの少し踏んだだけでもタコメーターの針が、設定されたレブリミットの1万回転をめがけて一気に跳ね上がる。
タコメーターを踊らせるレスポンスはまさに官能的で「この刺激はTC24だけのもの。他の、どんなエンジンにも味わえないと思う」と片岡サン。そのフィーリングに、ぞっこんの様子だ。
そんなエンジンのパフォーマンスを満喫するために、足まわりや駆動系も念入りにセッティング。装着するホイール(RSワタナベ/マグネシウム)は、サイズ違いの2セット目。「1セット目の装着感にイマイチ甘さを感じた」というのが、履き替えた理由だ。
車高の低さもエンジンパフォーマンスも究極。熱狂的なS30Zフリークのカスタムへのコダワリ度は、並じゃない。
ライバルは親父。一番の協力者も親父
片岡サンの父(片岡功一サン)は、旧車界では名の通ったスゴ腕のプライベーターだ。ハコスカ(日産GC10型スカイライン)やレビン(トヨタTE27型カローラ)など複数の旧車を所有し、メンテナンスからカスタムまでほとんどマイガレージで、自分の手でこなす。
息子である信和サンが旧車カスタムを始めたのは、父の影響が大きいことは必然。この日も、父のハコスカと2台揃ってのエントリーだ。
片岡サンにとって父のハコスカは、同じ元祖TC24-B1を搭載する一番のライバル。シャコタンにコダワるのは、シンプルでプレーンな仕様をモットーとする父のハコスカと差別化するためかもしれない。
そうはいっても、父の存在なくしてS30Zの今の姿がなかったのは事実。エンジンの搭載からクーリングシステムのセットアップまで、すべて偉大なる父の手を借りる。
インテリアは、随所に功一サンの手によるモディファイが施されている。
「悔しいですけど、チューニングのテクニックやノウハウはオヤジの方がずっと上。だから、自分はこれからも発想で勝負したいですね」と片岡サンは話す。
父にとって懐かしい旧車も、息子である片岡サン世代には、逆に新しく目に映る。特にアメリカンナイズなデザインのフェアレディZは、カスタムやチューニングの自由度が高く、面白いそうだ。
旧車カスタム初挑戦にして、すでに多くの賞をゲット。このS30Zの完成度は、すでに間違いなくトップレベルだ。