空港内で車いすが必要な人に向けた新サービス
高齢者や障がい者はもちろん、怪我で足が不自由な人が広い空港内を移動するのは大変だ。飛行機に乗るまでの移動距離が長く、旅行の荷物があり、行き交う人も多いため、介助する人がいなければ搭乗口までたどり着くことさえ困難だろう。
日本航空(JAL)、日本空港ビルデング、WILLの3社が東京・羽田空港で実施した「自動運転型電動車いす」の試験走行は、そういった空港の移動が困難で、特に車いすを必要とする人に向けたサービスの実現を目指すもの。11月2日に報道関係者に公開されたので、その模様を紹介しよう。
自働運転と自動停止が可能
実験は羽田空港第1ターミナル南ウイング、3-9番搭乗口とコンコース間で実施。車いす利用者を含め空港内での長距離歩行に不安を感じる人など、一般からの参加者を募り行なわれた(写真は、報道関係者向けのデモで担当者が乗車)。
実験に使用したのは、車いすメーカーのWILLが製作した電動車いす「WHILL Model C(ウィル・モデル・シー)」をベースに、自動運転機能を搭載したもの。左右アーム部分に広い視野角のステレオカメラを採用、後方にもセンサーを採用することで周囲の状況を検知し、あらかじめ登録している空港内の地図情報と照らし合わせることで「自動走行」する。
もし、走行ルート上に人や障害物がある場合は自動停止も実施。また、複数の車いすを管理・運用できる自動運転管理システムも導入している。実験中に設定された最高速度は時速3キロだ。
スマホで直感的に操作
操作は、車いすに搭載されているスマートフォンの画面で行なう。ほとんどの操作がディスプレイのボタンをタップするだけで可能なため、直感的で簡単。実際の導入時は、係員が利用前に使い方などのガイドを行なうため、スマートフォンの操作に慣れていない高齢者でも問題なく扱えるという。
また、利用者が決められたルート以外の好きな場所へ行けるように、操作スティックを使った「手動運転モード」も設定している。
自働運転中に「停止」が長い
報道向けのデモでは、保安検査場からコンコースに入ってすぐにあり、複数台の車いすを駐車できる「WHILLステーション」から、3番搭乗口までの往復の利用例を公開。往路は、利用者が手動で動かし、目的地まで移動し、ステーションまでの復路は車いすが自動運転で戻るといったケースを実証した。
ただし、復路の自動運転中に、少し気になることがあった。実験用の車いすは、前述の通り、走行ルート上に人がいたり、障害物などがある場合には安全のため自動停止する。だが、車いすから5〜6m程度のかなり距離があるところを人が横切っても停止してしまい、いっこうに動こうとしなかったことだ。
当日は、3連休初日でコンコース内は多くの旅行客で溢れていたが、利用者が手動走行している時には、時には人をよけたり、時には止まることで、スムーズに移動ができた。ところが、自動運転では人が操作した時に比べるとはるかに進みが遅い。
安全上で考えれば「しかたない」ことではある。だが、もし利用者が搭乗口までの移動を「自動運転」で行なった場合には、混雑時は到着するまでかなりの時間がかかることになる。これを考えると、自動運転機能が人と同様の判断などができない限り、実際の導入では、利用者は当面、手動で走行した方がよさそうだ。
高齢者にとって空港の移動は大変
JAL 空港企画部の大西氏によると「羽田空港の第1旅客ターミナルは、全長が約800mと大きく、特に高齢者にとっては長距離の移動はかなり負担になっている」という。
また、空港に用意されている車いすは「1日に100名ほどが利用するが、その約半数が『普段は車いすを使っていない』高齢者など」だという。
なお、今回の試験走行は、3社が取り組む「自動運転パーソナルモビリティ(次世代型電動車いす)共同プロジェクト」の一環。これは、全ての空港利用者にシームレスな移動を提供することが目的で、既存の交通機関を降り空港の搭乗口など目的地に着くまでの「ラストワンマイル」を移動するための最適化を目指すものだ。
実現すれば、搭乗口までの移動だけでなく、フライト時刻まで時間がある場合は、途中にあるレストランやショップに寄ることなど、高齢者や障がい者が空港内をより自由に移動できることができるようになる。実用化の目途は2020年度中で、羽田以外の空港での導入も検討中だ。