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メルセデス・ベンツ 事故を起こさないためのドライバー中心の設計思考

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TEXT: 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)  PHOTO: MBJ、ヤナセ、妻谷裕二、Auto Messe Web編集部

エンジンのパワーをフルに使えるシャーシ性能

 メルセデスのエンジニア達が常に心に打ち込んできた名句、「シャーシはエンジンよりも速く」がある。

 メルセデスがいう高性能車とは、単なるエンジンパワー優劣ではない。エンジン性能をフルに発揮し最高速度で走っても、シャーシを構成するサスペンション、ステアリング、ブレーキ、タイヤ等すべての要素には十分な余裕を持たせた設計で、常に誰にでもコントロールできる車であるということが第一条件なのだ。語り継がれている名句「シャーシはエンジンよりも速く」は、コントロール性向上には各部の呼応の速さが必要だということだろう。

「走る性能・曲がる性能・止まる性能」がそれぞれ確実に効果を発揮するバランスのとれたクルマ、言い換えればクルマと人間がうまくマッチした「トータルセーフティ・ファッション」。つまり、思い描いた通りに走り、コーナリングができて、ブレーキは踏力に応じて効き、狙い通りの個所でぴたりと停止できる。

 しかも速度が高まるほど、足回りが路面に吸い付き安定する。1967年には「高速コーナー90度バンク」を増設、絶壁に沿って走り込んでいくバンクで、乗用車やバス・トラックまでテストされるようになる。メルセデスが、総じて高速になればなるほど足回りがしっかりしていると言われる理由でもある。

 またどんな路面状況においても、タイヤの接地具合、クルマの方向安定性を正確にドライバーに伝えるのがメルセデスの足回りの特徴であるとは、昔から言われていることだ。

 

ハンドルを切り増すだけでカーブを曲がれる設定

 コーナリング時のメルセデスのハンドリング特性は、ニュートラルに近い弱アンダーステアに設定。もちろん適度のロールも与えている。アンダーステアの性格を持っているクルマは、ハンドルを切った角度よりも外側に出る。しかし、ニュートラルに近い弱アンダーステアなら、カーブに対して少しずつハンドルの舵角を切り足せば良いので、誰にでも容易にコーナリングが可能となる。

 逆にオーバーステアの性格(ハンドルを切った角度よりも内側に向く)を持っているクルマは、ある時突然カーブに対して切り込み過ぎて、逆方向にハンドルを切らなければならない場合もある。

 メルセデスは如何にしたら誰にでも安全で容易にコーナリングできるか、人間の性格を見抜いた特性をクルマに持たせている訳だ。

 

適度な硬さを持たせたシートが疲労を抑制する

 室内空間の寸法の中心は何と言ってもやや高めにセットしたシート。この高めのシート位置と広くて優れた視界がメルセデスでは安全運転に不可欠だと考えている。

 室内空間を設計するポイントは人間最優先。メルセデスのエンジニアは「95%の男性」と「5%の女性」を重視している。95%の男性は100人中5番目に背の高い男性で、5%の女性は100人中5番目に背の低い女性を意味している。つまり、1995年当時で95%の男性は188.7cm未満の身長、5%の女性は151.0cmを若干下回っていた。この2つのデーターを基に最高と最低の寸法を割り出している。

 さらに身体の上下運動のデーター等を加え、「ドライバーの腰部」を最重要ポイントとしてシートを設計。解剖学的にドライバーの背中をシートに密着させ、「正しい姿勢」で座る事を最重要視し、ドライバーズシートに着座した状態で、ドライバーの膝の曲がる角度はもっともペダルを踏みやすい角度「120度」になるように設計。座面が膝裏に達するほど長いと、「血液の循環」を損ねて好ましくないことにも対処しているのだ。

  姿勢の悪い人は疲れ易いと言われている。その理由は内臓が圧迫されているからだ。確かにメルセデスのシートは「適度な硬さ」でしかもやさしくしている。反対に座面や背もたれが柔らか過ぎるシートは、まず身体が沈み込みしっかりと安定しない。応接間の柔らかいソファが良い例だろう。人間には「自律神経」というものが働き、常に正しい姿勢に戻そうと自然に神経を使っている。この微妙な動作が続くと疲労が早まり蓄積する。

 これに対し、適度な硬さに設計したメルセデスのシートは、身体が安定して姿勢が一定に保たれるので疲れにくい。しかもシート自体のホールド性も良い。ロングドライブで疲れを感じた時には、もう一度深く座り直してみる。こうしてシートの形状にすんなり身体を預けてみると、メルセデスのシート本来の実力が発揮されるのが良く解る。つまり、シート自体が適度な硬さなのでクルマの動きに合わせて少しずつ身体が自然移動し、「血液の循環」も良くなりロングドライブでも疲れなく安全という訳だ。

 

使いやすさ配置を統一化しているレバー&スイッチ

 良く使うスイッチやレバーはステアリングホイール内の手が届き易い場所に設置している。ウインカーやワイパー・ウォッシャースイッチ、ライトの上下切り替え、パッシングのように常時使うものはステアリングコラムのストークに集結し、ハンドルから手を離さずに前方を見ながら容易に操作できるようにしている。

 また1967年に独自開発し、何役もの機能を果たす「コンビネーションスイッチ」。1971年発売のSLクラス/R107から採用して以来、継承採用。どのメルセデスモデルに乗り換えてもその操作が統一化されているので、どのメルセデスも乗り換えてすぐ操作に慣れることができる。ハンドルの左側にある少し太めのレバースイッチなので一目で解るだろう。

 ところで、メルセデスと国産車のある操作レバーの位置に大きな違いがある。主要な自動車生産国ではウインカーレバーの位置はISO規格(国際標準化機構)に基づいて「左側」に統一化されている。しかし不思議な事に、「日本国内で走る右ハンドルの日本車」だけはISO規格にも拘らず、現在もウインカーレバーは「右側」。その理由は、変更に伴って混乱を避けるという日本の行政的判断によるものと言われている。日本では当り前の右ハンドルの右側ウインカーレバーは、今や世界でも例のない特別仕様で「日本の常識」が「世界の非常識」の一例である。

 メルセデスには隠れたきめ細かい操作安全対策がある。例えば、一旦クルマを停車する時には周囲の人や車に注意を知らせるため、前後左右のウインカーを点滅させるハザードスイッチをオンにする。一旦停車させたクルマを再び発進させる時、ハザードランプが点滅中のまま、ウインカーレバーを操作し走行車線の右側に進入する意思を示した時、右側ウインカーのみが点滅するかどうか。メルセデスの答えは右側ウインカーのみ点滅する。一般的にはハザードランプを解除しない限り、その時のウインカー操作機能は無効になるクルマがある。

 メルセデスは1993年以後に発表されたCクラスセダン(W202)から、「あとから操作したウインカーが優先」する様に設計している。これは発進時の危険を少しでも減らすための重要なポイントだ。

  一方、メルセデスのヘッドライトスイッチは必ず運転席側の厚くパッドした「ダッシュボード下部」にうまく埋め込んで設置されている。夜間走行中や昼間のトンネル走行中に、助手席の人に誤ってヘッドライトスイッチを操作されるとヘッドライトが消え、一瞬にして真っ暗の中を走行せざるを得ない非常に危険な状態になるからだ。

 助手席に座りスイッチ類をまるでゲーム感覚で触ったりしてしまう子供達、クルマのシステムをあまりよく知らない人が助手席に座ると危険とも言える。そこまで考え抜いてメルセデスは、ヘッドライトスイッチの位置を今も頑固に守って設置しているのだと再認識させられる。設計者自身がメルセデスのオーナーでなければ、このような隠れたきめ細かい操作安全対策はできないと言えるだろう。

 

見やすくすることでドライバーへの負荷を低減

 メルセデスをドライブしていると死角が少なく見渡せるその全面視界の広さと、他の道路利用者からも自車の存在を知らせる視認性に優れている事に気が付く。

 まずドライバーは視界が広く常に快適な気分が保て、疲労が少なくて済むという事実。疲労の多くは目からはじまる。目が疲れると身体全体が疲れた様になり、反射神経が鈍る。そこで、メルセデスのエンジニア達は目を極力疲れさせないための万全の措置として、見やすく、そして見られやすくする知覚安全設計をしている。

 この知覚安全性は、1966年にメルセデスが初めて使用した言葉。メーター類がドライバー側のダッシュボードをさらに高く盛り上げ、ひさしの奥中央にセットしてある理由は、ドライバーがハンドルを握りながら、前方視界よりほんの少しだけ「目線を落とす」だけで容易に読み易く確認でき、運転に集中できるからだ。また、太陽光線の差し込みによる反射も防いでいる。

 今日のような交通事情では、他からすぐに認められるボディカラーが安全の重要な要素になっている。特に、トンネル内は蛍光オレンジ色で、暗いトンネル内を最も早期に認識されるカラーになっている。手元にある1983年のメルセデスカタログを見てみると、クラシカルホワイト(カラーコード:737)は視認度88%、ライトアイボリー(623)は77%と上位の安全色。しかも明るい色は風景に溶け込み膨張色となりボディが大きくみえる。逆に、ブラック(040)は視認度5%だが、ボディを引き締め、またシックにみえる。

 メルセデスは1960年から安全なボディカラーを視認度順に並べたカラーチャートで啓蒙活動をしていた。ドイツ国内のタクシーの色をそれまでの黒からカラーチャート上位のライトアイボリーに変える「法律制度」のきっかけを作った経緯もあった(1970年施行)。明るい色の方が特に夕暮れ・夜間・霧の中では暗い色よりも2倍~8倍位の距離から視認される事が解っている。ただし、最近多くなったメタリックペイントは反射能力や見る角度で大きく差が違うので視認度は解らない事に注意!

 

イメージカラーのシルバーの発祥は軽量化

 昔のレースは出場国のナショナルカラーでボディ色が決められていた。イギリスはグリーン、イタリアはレッド、フランスはブルー、そしてドイツはホワイト。

 1932年10月、当時のAIACR(国際自動車クラブ連盟・パリ本部)は、いつも高馬力で重量の重いメルセデス(まさに白い象)が優勝していたので、限りのない超性能車の開発に歯止めをかけるために1934年から新しいGPフォーミュラ規則を発表。重量は750kg以下に規定した。

 メルセデスは極秘にニューマシンW25を開発し、1934年6月3日ドイツのニュルブルクリンクサーキットで行われたアイフェルレースに出場。しかし、レース前夜の車検でこのW25レーシングカーは750kgを1kgだけオーバーしていた。そこで、メルセデスのエンジニア達はドイツのナショナルカラーであるホワイトのペイントを徹夜で全て剥がし軽量化。750kgで出場許可を得る。

 これがアルミ地肌のシルバーに生まれ変わっての優勝となるのだった。その後のレースでもメルセデス・ベンツは連戦連勝を重ね、シルバー・アロー(銀の矢)が定着したというわけである。

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  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 1949年生まれで幼少の頃から車に興味を持ち、40年間に亘りヤナセで販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特にメルセデス・ベンツ輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版のカタログや販売教育資料等を制作。またメルセデス・ベンツの安全性を解説する独自の講演会も実施。趣味はクラシックカー、プラモデル、ドイツ語翻訳。現在は大阪日独協会会員。
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