半世紀前に生まれた「現存約50台」ともいわれる
超激レアモデル
東京の街中を走る、まるでマンガの世界か遊園地から飛び出してきたような1台の“へんてこ”なクルマ。「見た人はビックリしていますね」。そう語るのはオーナーの瀬木貴正さん。2016年、「めったに欲しいと思えるクルマがない」という瀬木さんを衝動買いさせたクルマが、フェルベス・レンジャーだった。
「昔からフェルベス・レンジャーのことは知っていました。中古市場に出てくることはまずありません。eBayでも年間1台か2台しか出品されないくらいレアなクルマだということを聞いたら、俄然欲しくなってしまって。冗談半分で友人に話をしたら『大阪で売りに出されているよ』と…。すぐに見に行きました」。
1966年にイタリア・トリノショーで発表され、71年までの5年間で約600台しか生産されなかったフェルベス・レンジャー。フェルベスとは、Ferrari Veicoli Special(フェラーリ・ビークル・スペシャル)の頭文字を組み合わせたイタリアのボディ架装業者:カロッツエリアの社名。当時、フェルベスに在籍していたカルロ・フェラーリが同車を手掛けたことから、エンブレムにはフェラーリのそれを模した跳ね馬があしらわれているものの、フェラーリ社とのかかわりは一切ない。
キュートとも表現できるチョロQのようなレンジャーのフロントウインドは可倒式で、倒せば、前方を遮るものが何もない状態で走ることができる。
シャシーはスチール製のパイプフレームで、リアに18馬力を発生する「フィアット ヌゥオーヴァ500」(2代目)用の499ccエンジンと4速ミッションを搭載。サスペンションとブレーキはフィアット600Dを流用し、ほかの細かい部品も、当時のフィアット社にラインアップされていた大衆モデルのもので構成された超小型オフローダーだ。
「多くの部品が今も流通しているので、修理の際に困ることはないですね」と瀬木さん。
内装もきわめてシンプルであり、旧フィアット500と同じハンドルやシフトノブ、スターターとキャブレターのチョークレバーがあり、その後ろにサイドブレーキのレバーが配置される。
シフトレバーの先に2本の棒がむき出しになっているが、これは左右いずれかのタイヤを手動でロックさせて、その場でクルマの向きを変えるためのものだという。
「イタリアでは農家が藁(わら)などを積むために使っていたようです。険しい山道やあぜ道などでも小回りが効くように工夫されていたのでしょうね」。
ちなみに、その奥にのぞく配管パイプは瀬木さんがホームセンターで購入し、取り付けたもので、エンジンの熱気を足下に導くのが目的。夏場はともかく、冬は足下があたたかくなって快適らしい。
「購入当初はタイヤが太すぎてカッコ悪かったので細いサイズに換えました。ほかにも、エンジンルームに熱がこもってしまうため、電動ファンを装着して強制的に熱を逃がすようにしました。構造がシンプルなのでホームセンターで売っている部品でなんとかなっちゃうのも魅力ですね」と、オリジナルの状態を保ちながら、細かい部分にわずかに手を加えている。