70年代のアニメ「チキチキマシン猛レース」で
話題だった“岩石オープン”の実車版!?
大学生の頃からクラシックカーとオートバイに興味をもち、就職先は、埼玉県朝霞市の本田技術研究所だったという瀬木さん。今も面接試験日のことをよく覚えている。
「当時、愛車だったホンダCB72で試験会場に乗り付けたら、みんなスーツを着ているのに、ボクだけ革ツナギを着ていて…アセりました(笑)。守衛さんに、あんた何? まさか面接受けに来たの?? とりあえず、バイクはそっちに置いて、といわれたのが懐かしい思い出です」。
1982年、見事に合格した同社の配属先は二輪車試作部門。世はバイクブーム真っ只中、さまざまな試作車を手掛け、部品製作などにも携わった。家業を継ぐために退職したのと同時に、一点モノの自動車部品などを制作する工房も設立したが、いまだ探究心は衰えず、材料さえ揃えばなんでもつくりだしてしまうモノづくりのスペシャリストだ。
フェルベス・レンジャーのボディに貼られたマグネット式の「W」
その中でも個性の塊のようなフェルベス・レンジャーを所有することに、きっと、奥様は困惑しているに違いない。が、瀬木さんに尋ねると、じつはそうでもない様子。
「むしろ『ウインドもドアもないブガッティよりぜんぜん快適』と喜んでいます。都内で行なわれるクラシックカーラリーなどのイベントに同伴するときも、レンジャーのほうがうれしいみたいですね」。
撮影を終えて、お台場から外神田までのおよそ10kmの道程を助手席に乗せていただいた。フロントウインドを前に倒した状態で走るフェルベス・レンジャーの姿を認めた人たちが、スマホのカメラをいっせいにこちらに向ける。
少々小っ恥ずかしいが、クルマを見て理屈抜きに誰もが笑顔になる様子を見ていて、「スーパーカーもかくや」と思えるこのクルマの存在の大きさを改めて感じることができたのだった。
40km/hで走っていても体感スピードは70km/h以上。ふだん携帯しているメガネを忘れてしまい、真正面から受ける風で涙が止まらないが、とても18馬力とは思えない力強さ、走る・止まる・曲がるという基本性能が意外にしっかりしていることに驚かされる。
とはいえ、「ドアを外した状態でも走ることができるんですが、やっぱり怖いですね」という言葉に思わず納得。そう、このクルマの本質は、マンガの世界にこそぴったりハマる “リアル岩石オープン”なのだ。
取材翌日、久しぶりに動かしたレンジャーのプラグを点検しようと外すと、あろうことかレンチにはプラグだけでなく、エンジンブロックの一部(ネジ山)まで一緒にくっついてきたという。そんなトラブルさえも日常茶飯事なのか?「すぐにエンジンをバラして修理しちゃいました」と軽く言ってのける瀬木さん。
瀬木さんにとってフェルベス・レンジャーは、たんなるクラシックカーというよりも、手間がかかるほど愛情が増し、みんなに自慢したくなる “運転できるオモチャ”のような存在なのかもしれない。