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「電通」子会社の新カーシェア事業、愛車の一時交換アプリ「カローゼット」は安心して使えるのか?

個人間のクルマ交換を仲介する新カーシェアサービス

 民泊などで話題の「シェアリングエコノミー」。クルマでも、様々なカーシェアリングサービスが次々と誕生する中、大手広告代理店の電通が100%出資する子会社「カローゼット」は、ユーザー間で愛車の一時交換ができるアプリサービス『CAROSET(カローゼット)』の提供を、12月10日より開始。使用料など金銭のやり取りがユーザー間で一切ない新サービスとして、同日に報道関係者向け発表会を行なった。

 「カロ―ゼット」は、スマートフォンなどにインストールした専用アプリに登録した自分が所有するクルマを、自分が乗ってみたい他のカローゼット会員のクルマと「一時的に交換」できる新しいサービスだ。

 これにより、カローゼットの会員は、メーカー、タイプ、デザイン、カラー、装備など、自分が所有しているクルマとは異なる複数のクルマを自由に利用できるようになる。

 例えば、普段はコンパクトカーに乗っているが、大人数で出かける時だけ3列シートのミニバンに、荷物を積む時だけステーションワゴンへ、キャンプに出かけたい時だけキャンピングカーを使いたいなど、その時々で個々の求めるシーンにマッチしたクルマに乗ることが可能。

 条件に合ったクルマを持つ他の会員と、自分の愛車を一時交換することで、より幅広く充実したカーライフが楽しめるという。

 アプリは現在iOS対応のみだが、将来的にはAndroid対応のものも提供する予定だ。

 

交換した日数だけ交換リクエストができる

 このサービスの最大の特徴は、そのルール。自分が他の会員からの愛車一時交換リクエストに応じた日数分だけ、自分も他の会員に愛車の一時交換をリクエストすることが可能。クルマの一時交換については、オーナー同士で交換場所や日数などを決めるという仕組み。

 あくまで「交換」なので、相手に貸している間にクルマがなくなることはない。さらに、前述のように「オーナー間で金銭のやり取りは発生しない」ことも売りにしている。

 会員がまだ一時交換に応じたことがなかったり、交換したい日数に対して権利の日数が足りない場合は、後から一時交換に応じる約束をすることで、他会員への一時交換リクエストが可能となる「前借り制度」も導入する。

 アプリの利用費は2020年5月末まで無料だが、それ以降の2020年6月からは月額780円が必要。また、前述の前借り制度で、前借りした日から30日以内に他会員の一時交換オファーに応じられなかったり、リクエストがなかった場合は、「前借りの精算」として1日につき4980円(税抜)を支払わなければならない。

 

自動車販売業者との「交換」制度も用意

 また、「プロオーナー制度」という名称で、自動車販売事業者が所有する試乗車などを、個人会員が一時交換できるプログラムも展開する。

 個人側はクルマの選択肢が増えることと、プロが整備したクルマに乗れる安心感があり、業者側は一時交換を契機に、新たな見込み客の開拓などに繫がるといったメリットがあるというわけだ。

 現在、このサービスに登録している事業者は、東京都・神奈川県下でBMWやプジョーなどの販売を手掛ける「サンオータス」、関東圏で中古車販売などを手掛ける「フレックス」、ボルボの国内販売を手掛ける「ボルボ・カー・ジャパン」、東京・西東京エリアのカーディーラーである「ホンダ東京西」の4社。カローゼットでは、今後も登録業者の数を増やしていくとしている。

「他車運転特約」付き保険への加入が必須

 従来、クルマのカーシェアリングサービスには、タイムズやカレコなど事業者が所有するクルマをシェアする事業者タイプと、DeNAが運営するanyca(エニカ)など個人オーナー間でシェアする個人間タイプがある。

 カローゼットは後者に近いサービスだが、エニカなどではシェアする者同士の間で取り決めた使用料が発生。その金額に対して一定割合の手数料(10%程度)を運営側に支払う仕組みだ。一方のカローゼットは、個人間での金銭やり取りはなく、前述のような会員費と前借り精算の費用のみとなる。

 また、入会時には、任意の自動車保険に加入することが条件となるのもエニカなどと同様。これは、借りたクルマで事故をおこしたり、傷を付けた場合のトラブルに対処するためのもの。

 カローゼットでは、車両保険が付帯している商品など、他人のクルマを運転していた場合にも補償の対象になる「他車運転特約」付き保険への加入が必須となる。エニカでは、損保ジャパン日本興亜や東京海上日動と連携しているが、カローゼットでは損保会社の指定は特にない。

地方のカーオーナーがターゲット

 同社のアンケート調査によると、「クルマを所有する必要性が高い」と回答した人は、東京23区内では3人に1人。一方で、首都圏40km圏内では約6割、40km圏外では約8割、地方都市では最大9割以上となり、全国平均でも約10割に及ぶ。

 これらを踏まえ、同社ではサービスの主なターゲットユーザーを、都心を除く全国のクルマを「所有する」人に設定。具体的な会員目標数は非公開だが、できるだけ幅広いユーザー層の獲得を目指すという。

 ちなみに、このサービスの概念を「OPA(OPEN PERSONAL ASSET、オープン・パーソナル・アセット)」と名付けている。これは、自分の資産(この場合はクルマ)を他人に貸した時間分だけ、他人の資産(クルマ)を借りる権利が付与されるという考え方。現在、同社はOPAの概念やシステムなどをPCT国際特許に出願済みで、申請が通ればPCT(特許協力条約)に加盟する153の国(2019年10月現在)全てに対し権利を持つことになる。

 さらに、同社では、このOPAを今後もクルマ以外の分野、例えば近隣の住民同士で子供服や本などの一時交換を行なうといった事業も展開予定。三菱地所や東京海上日動、大和ハウス工業、Fujisawa SSTといった4社が、住宅や地域開発に関連した事業などとOPAを連携させた協業を行なうことになっている。

トラブルへの対象は万全なのか? 

 話をクルマに戻そう。一般的に個人間でモノの一時交換(貸し借り)が行なわれる場合、顔見知りであっても様々なトラブルが発生する可能性は否めない。

 クルマの場合で例えるならば、交換を約束した当日に待ち合わせ場所に来ない(ドタキャン)や、廃車になるほどの事故を起こされて貸した方が処理に忙殺されるといった懸念だ。

 また、人によっては車内をひどく汚されたとか、ペットを乗せられたことで臭いが取れないといった苦情を言う人もいるだろう。借りた方はたいしたことがないと思っていても、貸した方はボディに目立つ傷を付けられた、と思ってしまうケースも想定される。

 こういったトラブルに対して、カローゼットでは、「あくまで個人間の問題」として仲介などはしない方針。念のためにコールセンターでアドバイスはするというものの、果たしてそれだけで大丈夫なのかは疑問が残る。

 ちなみに、業界で先んじるエニカでは、365日のメール・電話でのカスタマーサポートのほか、修理工場と連携した修理サポートサービスなどを行なっている。

 

利用者が見えてこない不安

 クルマは、買うときはもちろん、維持するにも相応のお金がかかる「高価な資産」。所有している人たちには、思い入れもあるし、特に日本人はクルマの傷や汚れ、車内の臭いなどに敏感な人種だ。

 子供服や本などとは、単価や趣味性など、そもそもの特性がかなり違うのではないか。もし、運営側がそれらを踏まえずにビジネスを行なうのであれば、結果的に利用者が嫌な思いをする危険性があることが懸念される。

 そもそもそんな「クルマ好き」は、こういったサービスを使わないと言えばそれまでだが、逆にいえば、一体どんな人がこのサービスを利用するのだろうか? 今ひとつ利用者層が見えてこない。

 前述のプロオーナー制度であれば、個人がプロの業者からクルマを一時交換する(実質は借りる)ことになるので、利用する個人も安心できるだろうが。

 電通グループでは「初のCtoCプラットフォームサービス」というカローゼット、懸念が筆者の取り越し苦労でないことを祈る。

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