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90年代に大ブーム! ミニバン本家のアメ車「シボレー・アストロ」が一世を風靡した理由

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TEXT: 藤田 実寿  PHOTO: アメ車ワールド、撮影協力:シェビーストリーム

ブームの背景にアメカジ系雑誌の影響あり

 ファミリーカーとしてはもちろん、VIPや有名人の送迎など、街中で見かけない日はないほどに日本のクルマ市場で存在感を放っているミニバン。国産を代表するアルファード&ヴェルファイア、いわゆるアルヴェルはいまやトヨタのドル箱だし、エルグランドやセレナだって日産にとっては欠かせないミニバンだ。

 かつてはスポーツカーメーカーと認識されていたホンダに至っては、ある時期いつのまにかミニバンのメーカーのようになっていた。現在の日本のミニバン市場は国産車が凌ぎを削っており、そこに輸入車が入り込むには並大抵のミニバンでは敵わないが、1990年代から2000年代にかけて、1台のアメリカ車がミニバン市場を席巻した。そのアメ車が「シボレー・アストロ」だ。

 シボレー・アストロは、当時アメリカで人気を博していたクライスラーのミニバン兄弟、ダッジ・キャラバンとプリマス・ボイジャーの人気をねたんだ「GM」が、そのシェアを奪うために1985年に発売したミニバンのこと。まるで箱のような形をしたボディの4隅にタイヤを配し、いま見るとお世辞にもスタイリッシュとは言えない無骨なスタイルが良くも悪くも特徴だった。

 そんなシボレー・アストロが日本で脚光を浴びるきっかけとなったのが、1990年頃、タレントの所ジョージさんがイメージキャラクターを務めていた雑誌での紹介だろう。当時の所ジョージさんは自らのクルマ好きが高じてクルマで遊ぶためのTV番組を持っているほどで、そのカーライフスタイルに憧れを持つ者が続出。

 そんなときに斬新だった箱みたいなクルマが「すごい!」と紹介されたのだからブームにならないはずがなかった。1ドル80円という空前の円高為替も後押しし、正規輸入のなかったシボレー・アストロはたちまちのうちに並行輸入業者によって大量に日本へと持ち込まれることになった。

 かくして輸入されたアストロは、国内ではミニバンとは名ばかりで想像以上にデカかったわけだが、意外と車両感覚はつかみやすくて極端に狭い道でなければ運転はさほど苦にならなかったのは幸いだった。

 一方で、箱のようなボディがもたらす車内空間はこれまでの国産ミニバンとは比べ物にならないほど広く、車内を歩いて移動することだってできた。

 また、4.3リッターという大排気量のV6エンジンを搭載しており、図体の大きさを感じさせないほどによく走った。これらを一度体験してしまったら国産車には戻れないという人が続出したのも想像に難くない。

 さらに当時は、クルマはイジって乗るのがわりと普通で、オリジナルの状態で乗るのはオヤジくさいと考えられてもいたから、とりわけ流行に敏感な者は愛車をイジることで、いかに他人と差別化を図るかを考えていたもの。そんな者たちにとってシボレー・アストロは格好の素材のひとつ。スポーツカーのようにドレスアップしたスポーツバンやベッタベタに車高をローダウンしたローライダーなどが登場した。

 ついにはクルーザーやヨットを架装するアメリカの業者が車内を豪華に彩った”コンバージョンバン”も現れ、自分の好みの仕様を選べて乗ることができたのもアストロ・ブームに拍車をかけた要因だった。

 こうして瞬く間に人気となったシボレー・アストロ。1993年からは正規輸入も始まり、日本では順風満帆であったが、商用車的で旧態然としていたスタイルがアメリカでは受け入れられず、クライスラーのミニバン兄弟の前に大苦戦。小変更を繰り返して何とか生き延びていたものの、2005年にはついに生産終了。後継モデルが作られることなく、その歴史に幕を閉じると、日本でのシボレー・アストロのブームも終焉へと向かうことになった。

 現在でも時々、元気に日本の公道を走っているシボレー・アストロを見かけることがある。もはや国産ミニバンでも当たり前になっているパワフルなエンジンやウォークスルーの車内、インテリアの高級化などは、もしかしたらシボレー・アストロがミニバン市場に残した功績かもしれない。

 いま、シボレー・アストロが新車で復活したら、懐かしさも相まってそこそこイケると思うのだが……。

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