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なぜ追突されても火災は起きない? メルセデス・ベンツが追究した「燃料タンク」の構造と安全性

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TEXT: 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)  PHOTO: メルセデス・ベンツセーフティ、妻谷裕二

メルセデス・ベンツの考える安全思想

 燃料タンクが起因する車両火災のお話しをする前に、メルセデス・ベンツの「セーフティセル設計」について説明しましょう。これは、事故の衝撃を吸収して乗員を守る、という設計思想のこと。つまり、ボディ前後は潰れ易くすることで衝撃を吸収し(クラッシャブルゾーン)、客室への影響を最小限度に止め、車内(パッセンジャーセル)は激しい衝撃にも決して壊れることのない頑丈な設計とすることで乗員を守るというものです。

 すでに、メルセデス・ベンツは1951年にこの「衝撃吸収式前後構造」と、頑丈な「パッセンジャーセル構造」の特許を取得。そして、この特許を独占せずに公開し、現在に至るまで乗用車の安全ボディ構造の基本となっています。

 さて、本題の車両火災の多くは衝突時の衝撃により燃料タンクが破損し、燃料に引火することが主な要因。そこで、メルセデス・ベンツは燃料タンクの耐久性や燃料漏れの対策として、長年の事故調査やクラッシュテストで継続的に検証し、前述の頑丈な客室付近に設置しています。

 つまり、メルセデス・ベンツは燃料タンクの材質そのものを強化すると共に、リアシートの下に設置し、リアアクスルで衝撃を受け止めて保護。同時に、追突された時の衝撃はトランク部全体で吸収分散され、燃料タンクに衝撃の影響がないように設計されています。

 以前のメルセデス・ベンツの燃料タンクは、同じ頑丈な客室のリアシート真後とトランク壁の隙間に設置されていました。その後、事故調査やクラシュテストで検証の結果により、さらに安全な位置として燃料タンクをリアシートの下に設置。実際、燃料タンクを撮影するため材質を調べてみたところ、強化ポリウレタン樹脂で錆びの発生がなく軽量、しかも堅い物で強く叩いた位ではビクともしないよう強固に造られていました。下写真(2002年Eクラス/W211)は燃料タンク全体のパーツで、センターの凹部にはプロペラシャフトが収まります。

 さらに、車底のリア左側後方より燃料タンクを確認してみると、安全なリアシートの下に設置。しかもリアアクスルの前に燃料タンクが位置し、リアアクスルで後方からの衝撃を受け止めることで保護していることが確認できました(下写真・アンダーカバーを外した赤線部)。

 最近のクルマは自動ブレーキが標準装備されるケースが増加。交通事故が減少する効果も期待されている一方、自動ブレーキが作動せず接触・追突事故に至ったとの報告が1年間で72件も国土交通省に寄せられていたそうです(2018年7月3日付け読売新聞記事)。

「交通安全環境研究所」の調査では、車種毎の規定速度を上回ったために作動が間に合わなかったケースや、暗闇や雨のため前方の障害を検知できなかったことが確認されています。逆にブレーキが勝手に作動したのは249件で、うち10件が後続車に追突されるなどしていました。従って、自動ブレーキ搭載車といえども過信せず、あくまでも運転支援技術であることを自覚すべきだと思います。

 今後、クルマは自動運転化となり、さらに環境意識の高めたEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、PHV(プラグインハイブリッド車)など、すでに実用化時代の到来へ。加えて人工知能を搭載したコネクテッドカーも想定され、まさに走る通信機器、走る家電へと進化する移動革命が起こっています。

 しかし、こうした次世代自動車になってもAIやコンピュータに頼ることなく、人間の命を守る本来の安全設計哲学が最も重要であると考えます。

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  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 1949年生まれで幼少の頃から車に興味を持ち、40年間に亘りヤナセで販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特にメルセデス・ベンツ輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版のカタログや販売教育資料等を制作。またメルセデス・ベンツの安全性を解説する独自の講演会も実施。趣味はクラシックカー、プラモデル、ドイツ語翻訳。現在は大阪日独協会会員。
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