いい味が出てきた「バルブ世代」のクルマたち
現在、旧車と呼ばれる70年代の国産車が人気となっている。なかでもハコスカやケンメリといった日産スカイライン、フェアレディZ(S30)といった旧車は、中古車市場では大高騰しており、1000万円超えなんていう個体も多い。どう考えても今のクルマの方が高性能だし、快適だと思うのだが、惹かれる理由としては現代の車両にはない旧車ならではの味(魅力)があるのだろう。
旧車人気の要因としては、他にも自分たちが”幼少の頃に憧れを抱いたクルマ”。すなわち、本当は乗りたかったけど買えなかった車両が、40代、50代になって余裕ができた人たちが、今なら乗れる…ということで購入するパターンも多いようだ。また、クルマに興味を示さないといわれる現代の若者の中には、そんな親の影響で現代のクルマよりも旧車の方が、スタイル的にも個性的に見えるというケースもあり、若者の中にも旧車好きも増えている。
そして、もうひとつの旧車。いわゆる80〜90年代にかけて生産された、いわば比較的に新しい「ネオクラシック」だ。こちらも当時の国産スポーツカー人気は高く、海外での需要も高まりつつある(25年ルールによって米国を中心に流出)。タマ数も減ってきたことで新車価格以上のプライスボードを掲げる中古車も多く、決して身近な存在とはいえなくなってきている。
そこで、いま一部のアフター業界が注目しているのは、ネオクラシックな国産セダンやクーペだ。事実、毎年2月に行なわれているカスタマイズカーショー「大阪オートメッセ」では、アリストやクラウン、シーマ、セドリックといった90年代の国産VIPカスタムを代表する国産セダンが多く見受けられた(2019年度開催時)。大半はプロショップが手掛けたユーザーカーだが、エアロパーツといったアフターパーツを取り扱うメーカーまでもが熱視線を送っているという状況だ。
80年〜90年代の良さを改めて感じてほしい
2019年の大阪モーターショーに出展していた「WALD(ヴァルド)」もそのひとつ。ブースにはケンメリGT-R(KPGC110型)、S30フェアレディZといった日産の旧車だけでなく、トヨタの10ソアラや10セルシオというネオクラシック車も展示。エアロパーツメーカーといえば、その時代の最新車種を披露するのが定番だが、なぜ古い車を出展したのだろうか。
「80年代から90年代あたりの国産車は、バブルの影響もあって非常に贅沢な作りをしています。しかし、旧車の域にも達しない年代なので、一般的なイメージは単なる古くて安い中古車ですよね。今回、あえてネオクラな世代のクルマを展示したのは、まだまだ廃れていくにはもったいないクルマをピックアップ。新しい見せ方ができないかと考えました」とWALDのスタッフ。
展示された10セルシオには、当時もの「ヴァルド・スポーツラインV1」のエアロパーツを装着。新たにデザインを起こしたものでなく、90年代初頭リリース時のデザインのまま当時の雰囲気を醸し出していた。足元は旧車向けの新作ホイールをセットし、イマドキ感もさりげなく薫らせていたのだ。
「セルシオは、今のレクサスでいえば最上級のLSシリーズ。自動車メーカーが多額の開発費をかけただけに、この年代のクルマは本当に素晴らしいですよね。そんな当時を知る人には改めて良さを感じて欲しいと思いつつ、当時を知らない人にも”LSの原点はここですよ”というのを教えてあげたい。エアロパーツはもちろんですが、ネオクラ世代の魅力を少しでも多くの方に見てほしいと思って展示しました」。
WALDによると、2020年より国産旧車に向けて新シリーズ「ヴァルド・クラシックス」を展開。各種パーツを含め、今風のテイストを入れた新デザインのエアロパーツも予定しているそうだ(20ソアラなど)。大阪モーターショーでは他にも「スピードフォルム」とコラボしたケンメリGT-RやS30フェアレディZを展示。オリジナル派が多い旧車スポーツカーだが、外装や内装には今風の味付けが施され、彼ららしい見せ方を提案していた。
前述のようにS30フェアレディZやスカイラインGT-Rのような海外でも人気の旧車は、程度のいい個体が少なく、前述のように驚くほどの価格で取引されている。若者の世代にとって簡単に手を出せないのも事実であり、たとえ気に入った車両があっても純正パーツが手に入らないなど、維持していく上での問題も少なからずあるだろう。
しかし、10セルシオあたりの年代ならば、まだまだ元気な個体が残っているし、旧車ほど高値でもない。とはいえ、いまや海外での日本車人気はスポーツカーにとどまらず、セダンといった他ジャンルでも高まっている。そうなれば、今後は手頃に買えた80〜90年代の国産車が高騰する可能性もあるだろう。ネオクラ世代のクルマは古臭いだけの印象が強かったが、いまこうやって眺めると「ようやく、いい味が出てきたな」と思えてきた。