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2020年、トヨタが2人乗りモデル販売! 法改正が進む中「超小型EV」が“それでも”普及しないワケ

高齢者や地方の足として「超小型EV」に必要なものは?

 トヨタが2020年の販売を発表した2人乗りモデルをはじめ、「超小型EV」が注目を浴びている。国土交通省が、2020年に法律改正を行ない、これらを新たな車両区分の中に組み込む予定であることが新聞各紙で報道されたからだ。実現すれば、一般車両と同様に公道走行が可能になり、高齢者や地方の過疎地域での交通、都市部での渋滞緩和などに役立てることが期待される。だが、超小型EVは本当に普及するのだろうか。

新たなナンバー区分が設定される?

 今年開催された第46回東京モーターショー2019に、トヨタは超小型EV(電気自動車)を出展した。このEVを、2020年の秋から冬にかけて市場導入したい考えだ。

 一方、現在の国土交通省が認証する車両区分に、この超小型車の枠組みはなく、これまでトヨタ、日産、ホンダが相次いで2人乗りの超小型EVを実証実験に使ってきたが、それらはいずれも限定的な認証制度に基づくナンバー交付であった。したがって、利用する場所や使用法が限定されてきた。

 2020年には国土交通省も新たな車両区分を策定する予定であり、その案は2つあるとされる。ひとつは新たに超小型車両の区分を設けること、もう一つは、現行の軽自動車の枠を広げ、そこに超小型車両を含むとする案だ。

 トヨタが導入する超小型EVは、高齢化社会と地域の過疎化による交通の確保への対策を主眼とする。2人乗りの4輪車。EVとしての性能は、最高速度は60km/h、一充電走行距離は100kmである。

エンジン車を延長したクルマづくりでいいか?

 モーターショー会場で出展された試作車に座ってみたが、日常的な買い物や通勤などには十分な広さや性能を備えていると感じた。一方で、課題となるのは価格であり、軽自動車の価格帯からどれほど安価にできるかによって、消費者の選択肢となり得るかどうかが決まってくる。

 現実的には、走行距離や最高速度を限定しても、搭載されるリチウムイオンバッテリーの原価が下がらなければ、軽自動車のエンジン車との差は広げにくい状況だ。したがって、従来通りの個人への販売ではなく、リース販売や、カーシェアリングのような利用形態などによって、利用料金を支払う使い方になる可能性もある。

 利用者にとっては、そのほうが経済的負担は少ない。税金や保険を個別に払わずに済み、月極駐車場代も不要だ。もちろん、車両代金も払わずに済む。あとは、いかにして利用する際の予約など手配が便利にできるかだろう。

 クルマづくりの面で、トヨタの超小型EVは既存のエンジン車の延長に留まっているのが気掛かりだ。たとえば、暖房はシートヒーターやハンドルヒーターといった、直接的に体を温めるほうが消費電力は少なく済む。

 その点、シートヒーターは考えられているが、ハンドルヒーターは装備されていない。情報の表示なども、既存の部品の流用で安くするのではなく、スマートフォンの機能を活用する発想が必要ではないだろうか。

 また高齢化を視野に入れているなら、運転支援や自動運転の導入なども考慮した開発が求められるのではないか。単に小さな車体にすることや、モーターを使うといった発想を、エンジン車の知見に上積みしただけでは、いい超小型EVはできないだろう。

都市部では3輪バイクのようなタイプの方がいい

 その点で注目すべきは、バイクのように前後に人が座る方式の超小型EVだ。走行安定性を高めるため、前2輪・後1輪の3輪車で、全幅が狭く、ドイツのスマートが初期に構想したように、1台分の駐車枠(スペース)を効率的に利用することができる。こういったタイプは、トヨタも以前からi-ROADというモデルを開発し、日本はもちろん、海外でも都市部のカーシェアリングなどの実証実験用車両として使っている。

 ほかにも、初代日産リーフのチーフデザイナー井上真人氏がイタリアのIAADで開発したWHEEVIL(ウイーヴィル)などがある。このモデルは、走行中は広いトレッドで安定性を高め、駐車する際はバイクのように車幅を狭くするためトレッドを縮めることが可能。都市部での使用を前提とした作り込みがなされている。

 このように使用形態を現場で実感できる超小型EVでなければ、市場調査や地域問題を机上で検証しただけで本物は生まれない。現場・現物・現実から生まれた超小型EVでなければ、売れるはずもない。

 さらに、自動運転化は不可欠な要因となっていくのではないか。高齢者対応といっても、運転免許証が必要であれば、免許証を返納した高齢者は救済されない。安くて、日常の足になるだけであれば、廉価な軽自動車で十分であるし、地方に軽トラックが多いのも、仕事と生活の兼用にもなるからだ。しかも衝突安全性能を満たしている。

 自動運転化された超小型EVが、では来年から国内どこでも走れるようになるかといえば、それもまた難しいであろう。となると、八方塞がりになる。

 超小型EVありきではなく、超小型EVをどのように使うかという具体的な構想が前提だ。それを全国均一に導入するのではなく、地域に根差した導入の仕方が具体化されなければならない。

 つまり、大量生産・大量消費という20世紀に構築された製造業の儲けの発想から脱却しなければ、実現できないのが超小型EVである。それは従来の自動車メーカーの姿からの脱却であり、大手自動車メーカーでは実現不可能であるかもしれない。

 もっと小回りの利く、バックヤードビルダーのような存在が、各地域に点在し、その物づくりの一つとして生まれるのが、本来の超小型EVではないだろうか。

プラットフォームの汎用化などがカギ

 大手自動車メーカーが役立てるとしたら、基本となるプラットフォームや、自動運転を実現するためのセンサーや制御といったシステムの構築である。それらを汎用化し、プログラム次第で各地域に適応できるように仕立てる。そこは資本のかかるところであり、零細や中小の企業では手に負えないかもしれない。超小型EVについて、トヨタが為すべきは、そういうことではないだろうか。

 超小型EVは、個々人の生活やニーズに合わせた“パーソナルモビリティ”とよく言われる。つまり、老若男女を問わず、笑顔が溢れるような乗り物にすることがその使命なのだ。これが実現することで、初めて街の様子は変わるだろう。見た目の景色が変わることが大切なのではなく、人の心が温まり、気持ちがほぐれる社会になる……超小型EVは、そういった社会づくりに貢献する乗り物であることが最も重要なのだ。

 

 

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