世界に一台を実現するワンオフカスタム
大阪モーターショーに展示された、ドレスアップ仕様のトヨタ・ハイエース。しかし、よく見てみるとハンドル位置が逆(左)になっているではないか。ハイエースや軽自動車を左ハンドル化する香川県の真鍋モータースの真鍋貴行社長は、その理由を「日本に存在しない仕様を、単に乗りたかっただけです」と語る。まずは左ハンドル仕様を作ったいきさつから伺ってみた。
「もともとハイエースのカスタムを手掛けていたのですが、日本ではハイエースの左ハンドルは見かけない。あれば面白いだろうな…というのがきっかけです。ハイエースの左ハンドル仕様は、東南アジアやアフリカに輸出されているのですが、輸入協定が結ばれていない国なので日本に輸入することは不可能。たとえ逆輸入できたとしても、日本の安全基準に適合しているかを証明する必要があり(衝突試験/正面衝突や側面衝突)、手間と費用が莫大にかかります。それならば”作ってしまおう”ということでスタートしました」。
とはいえ、もちろん公認車検の取得が条件。公道で堂々と走らせるためには苦労も多かったそうだ。例えば、左ハンドルにするには、ハンドルを操舵するためのラック&ピニオン(ステアリングギアボックス)を左ハンドル用に加工。ステアリングラックは元のパーツが使えないので、他車種用を探して流用した。いわゆる現物合わせだ。また、ダッシュボードは右ハンドル用を加工して左用に製作。シフトレバーやエアコンのコントロールパネルなども左ハンドル化にあわせて移動させている。
「ダッシュボードは、公認車検を取るために強度や安全性のテストが必要になります。製作したダッシュボードに鉄球を当てて、その歪みや損傷をチェックする試験ですが、第三者機関でテストしてデータを提出しました。現在は、測定用装置を購入したので、自社でデータを取れるようになっています」と、真鍋貴行代表は語る
他にもハンドルと一緒にウインカーとワイパーのスイッチ位置も変更(ウインカーレバーは左/ワイパーレバーは右)。無理に変更する必要もなさそうだが、わざわざ輸出用のウインカーレバーを使って忠実に左ハンドル車と同じ仕様とするなど、細部まで見どころは多い。
“他人とは違う”を求めるオーナーの願い
左ハンドル化への苦労話として、ペダルの位置変更もひとつだ。当然ながらブレーキペダルの位置が左サイドに変わるので、ボンネット内にあるブレーキのマスターバッグの位置も右から左に移動。冷却水のサブタンクや配管の位置変更、エアコンやヒーターの部品も移設されている。他にもワイパーやワイパーパネルまでも左右逆へ。左右で見え方の異なるドアミラーも位置変更するなど、左ハンドルで運転するために最適な仕様となっていた。もちろん、パワーウインドウスイッチも抜かりなしだ。
「数多くの書類を運輸局に提出し、改造箇所申請を実施。書類審査の後、陸運支局へ車両を持ち込んで確認検査を行ない、操縦装置位置変更の公認車検を取得するようにしています」と、製作から公認取得までの道のりを教えてくれた。
この左ハンドルハイエースの場合、基本的には純正部品の位置変更がメイン。使えるところには純正パーツを使っているため、強度や安全性も確保されている。当然ながら公認車検取得なので、何の問題もなく安心して乗れるというわけだ。
真鍋社長いわく「反響があるのは、左ハンドルに憧れを持つ40代以上で、普通の人は注文しませんね(笑)。あとは”他人と違うクルマに乗りたい”というマニアックな方からの問合せが多いです」とのこと。
制作費は90万円から、納期は4~5ヶ月。現在までで20台ほど製作したそうで、スズキのハスラーやジムニーといった軽自動車が多いそうだ。そういえば、軽自動車は日本独自の規格なので、左ハンドル化へのリクエストにはうなずける。なお、大体の車種で製作可能だそうだ(ただし、ホンダのS660は助手席スペースが狭いため不可)。メリットを感じるか否かは人それぞれだと思うが、世界中で左ハンドルが存在しない車種ならば、その優越感や満足感は格別なものになるだろう。
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マナベモータース
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