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「高齢者事故」対策は免許制度改正より“正しい運転姿勢”ができる「クルマづくり」が先決

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TEXT: 御堀直嗣(Mihori Naotsugu)  PHOTO: Auto Messe web編集部

踏み間違い事故防止はペダル位置の改善が第一歩

 そうしたなか、ホンダのN-WGN(エヌ‐ワゴン)は、軽自動車として唯一ハンドルにテレスコピック機構を標準装備し、なおかつN-BOXと同じプラットフォームを使いながら、2019年に出た新型ではペダル配置も右寄りに修正したのである。

 これにより、運転者は進行方向へ正対して着座できるようになり、ペダルとハンドルの位置関係も体格に合わせることができるようになった。ここが、高齢者が間違いなく運転できるようにする出発点だ。そのうえで、電子制御による運転支援が効果を高めることになる。

 したがって、衝突被害軽減ブレーキ限定の運転免許証にすれば問題の解決につながるわけではなく、自動車メーカーが、軽自動車や登録車のコンパクトカーのような安価な車種であっても、体格いかんによらず正しい運転姿勢をとれるクルマを開発するのが先でなければならない。

 なぜなら、電子制御による装置も万全ではないからだ。カメラやセンサーが100%確実に障害物をとらえられるとは限らない。その万に一つの誤作動を補完するのが、正しい運転姿勢である。

 

地域に適した移動手段の確保があっての免許返納

 運転免許証の返納と引き換えに、タクシーやバスなどの乗車券を渡せば済むことでもない。地域に適した移動手段の確保を実現したうえで免許証の返納を求めるべきである。全国一律にはいかず、地域ごとの事情が関係するので、一朝一夕にはいかないはずだ。

 まずタクシーやバスを運行する事業者との協議も必要だろう。地域の元気な高齢者を臨時の運転者として近隣の住民の移動を助けるミニバスのような取り組みがあるが、そうしたことを地域の自治体で認可できるようにすべきだろう。トヨタは、そうした事業のための5ナンバーミニバンを準備している。

 それでもなお、自治体自体が町村合併などにより人手不足となり、制度の実現へ向け人員を割けない状況にもあるという。ならば、自動車メーカーや販売店など民間企業が人員を応援に出すことはできないのか。それは、一種の地域ボランティアである。大規模災害へのボランティア活動が行われているように、ある期間、準備が整うまでは民間が支援し、あとは自治体と地域住民が協力して運営することで、地域のミニバスが実現できる可能性が広がるのではないだろうか。

 そうした住環境における移動の確保が整ったうえで、はじめて運転免許証返納の促進が成るのである。

“クルマづくり”の変革で高齢者事故撲滅へ

 痛ましい事故は一刻も早く起こらないようにする必要がある。だが、場当たり的な目先の対処だけでは事故は無くならない。自動車メーカーがこれまでやってきたこと(テレスコピックの非装着や、適正なペダル配置への無関心)への責任も含め、単に物づくりの会社である以前に、地域に貢献する企業であるべきではないか。

 どの自動車メーカーも、創業者は家族を含め周りの人たちの生活を守り、より豊かに暮らせるようにするため、自動車製造に乗り出す決意をしたはずだ。どの自動車メーカーも、事故ゼロを目指すのは当然であり、現実的に高齢者事故が増えているなら、それを根本から解決する決意がなければならない。個々の高齢な運転者の意思や認識の前に、まず、自動車を世に生み出したメーカーの責任は重いと改めて自覚すべきである。

 そして、金儲けを優先するのではなく、奉仕の心で高齢者事故撲滅に臨まなければならない。それでなければ、自動車メーカーの存在意義は失われることになる。

 高齢者の運転免許証制度の改革は、一律でよいはずもなく、個別に状況を確認すべきだが、それ以前に、以上のような諸問題が解決できなければ、免許証制度だけで事故ゼロは実現できず、なおかつ高齢者の生活も守れない。

 

 

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