音楽や動画を楽しむだけじゃない「5G」のメリット
今、何かと話題になっている通信技術が「5G」だ。5Gの“G”はGenerationの頭文字で、日本語で言うと「第5世代」目の通信技術を指す。世界的にも次世代の通信技術として各国がその覇権を狙って動き始めており、特に中国の動きは目が離せず、東南アジアやアフリカなどで動きを強めているのは有名な話。この”5G”、クルマの安全運転や自動運転にも大きな影響を与えることになる。
5Gの特徴は大きく「超高速通信」「超大容量」「超大量接続」「超低遅延」の4つだ。速度は現在の「4G」と比べて100倍以上と言われる10Gbpsの超高速(もちろんベストエフォートでの話)で、動画などの負荷の大きな通信にも耐えられる大容量化を実現している。さらに一度に多くの通信機器と接続できるため、たとえば家庭内のシステムとモバイル機器とをつないで外部から自在にコントロールできたり(IoT)、低遅延を利用して遠く離れたところから遠隔操作も可能。それは遠隔治療の実現にもつながる。
大量のデータを同時に端末や通信機などと接続できることで、自動車にとってもメリットは数多い。クルマとクルマ(V2V)や、クルマとインフラ(V2I)、クルマと歩行者(V2P)などが互いに高速通信することで、交通事故低減にもつなげられる(クルマと多数の“もの”とが接続することを総称し「V2X」と言われる)。
たとえば、先行車が捉えた事故の様子をいち早く後続車に伝えるといった事も可能だし、歩行者が近づいてくるのをクルマ側で検知して事故発生を未然に防ぐこともできるようになる。クルマの制御データを遅延なく送ることで、自動運転につながるクルマの遠隔操作も実現していくだろう。
個人情報流出などに対する危機感もある
5Gは一般に映画や音楽がアッという間にダウンロードされるとか、速度ばかりが強調されるが、実はこの超大量接続、超低遅延が実現することこそ、メリットはより大きいのだ。
その一方で、この特性を活かして利用者の様々な情報も大量に取得可能となるのも見逃せない。つまり、これまでアメリカもあらゆる個人情報を把握していたことはスノーデン事件で明らかにされたが、これが5Gによって大量の情報が中国の手で世界が席巻されたら大変なことになる。トランプ政権はここに大きな危機感を抱いているのだ。
では、5Gが超高速通信と言っても実際はどのぐらい速いのか。単純に言えば2時間ぐらいの動画映像も、条件が良ければ数秒でダウンロードが済んでしまう感じだ。とにかく速い。伝送容量も大きいから今までのような“パケ詰まり”現象もほとんど発生しなくなると言われている。スマートフォンも5G対応機が相次いで発表されているが、この辺りの使い勝手の良さが新たな商機を生むと見ているわけだ。おそらく、2020年の春商戦では5G対応のスマートフォンがさらに目白押しとなるだろう。
クルマへの活用はインフラなどの整備も必要
ただ、これらの特徴は当面、移動が常となるクルマに直接のメリットはあまりなさそうでもある。なぜなら、5Gが展開されるエリアが全国へ広がるのはしばらく先となるからだ。実は5Gは現在の4Gに比べてはるかに高い28GHzの周波数帯を使う。周波数帯が高くなれば指向性が強くなり、建物があれば急激に減衰してしまう。そのため、特に建物が多い都市部では今まで以上に密にアンテナを整備する必要があるのだ。
また、移動体であるクルマがこの新たな電波を送受信するにも高度な技術が欠かせない。そこで通信機器メーカーは5G対応アンテナの開発の余念がない。NTTドコモが東京モーターショーで出展したガラスアンテナもその一例だ。
そんな状況下で5Gへの対応を急ぐ日本政府や東京都は、効率よく電波が使えるよう電柱や信号機を活用して5G通信網を整備していく計画だ。幸いにも日本には先進国でトップレベルの充実度を誇る(?)電柱がたくさんある。人が住んでいるところには電柱があるわけで、この辺りを整備していけば効率よく5G活用が可能となっていく。また、信号機での整備は、信号で停車した際に高速通信を使って一気にデータを送り込むことを繰り返せば送受信がほぼリアルタイムで行えるというわけだ。
また、ソフトバンクは5G端末機を搭載した車両間で、ネットワークを介さずに直接通信ができる新技術も開発。これによって、5G基地局のエリア圏外でも相互に通信することが可能になり、たとえばトラックが連なって走る隊列走行が可能になる。この技術を発展させればV2Xの活用範囲は一気に広がるかもしれない。いろいろな意味で不安材料はある一方で、5Gは生活にさらなる便利さをもたらすことは確かだ。今後の5Gに動きからは目が離せそうにない。