着用しやすいシートベルトの追求
メルセデス・ベンツはシートベルトを着用し易くすることも極めて重要であると考えています。すでに、1971年に公開された「安全実験車・ESF 05」では、乗員が車室に座り込むと自動的にシートベルトが手の届きやすいところに降りてくる「Seatbelt Reach Device(シートベルト・リーチ・デバイス)」が試されました。
量産車ではSクラス(W126)のクーペからは、前席の乗員のそばにシートベルトが来るアームが採用されました。
また、1973年には引き出したベルトを「自動的に巻き戻すシステム」を全車に標準装備(前席)。1979年にはショルダーベルトアンカー部の「高さを調節できるシステム」をSクラス/W126の前席に採用しました。乗員の体型の大小にかかわらず、この高さ調節によって、最適で安全なシートベルト位置にセットすることができたのです。
さらにオープンボディのSLクラス(R107)は、1971年にショルダーベルトのアンカーポイントを「シートフレーム」に組み込んだ構造を、そして1989年にシートベルトを一体化した「エレクトリック・インテグラルシート」を採用。センターピラーのないCLクラス(C216)にも同様の「エレクトリック・インテグラルシート」を装備したのです。
そして、SLクラス(R230)やCLクラス(C216)では、この「インテグラルシート」の呼称を「メモリー付きインテグラルシート」に変更。つまり、シート位置などをメモリーできるシステムと一体化させたのです。ちなみに、インテグラルシートの意味は「シートベルト内蔵のシート」のことです。
また、センターピラーのない4シーターのEクラスクーペやカブリオレ(C207)では、前席のシートベルトを着用しやすくするため、ショルダーベルトを自動的に送り出す「シートベルト・フィーダー」を標準装備化。フィーダーは機械用語で、供給装置・送り装置のことで、名の通り着用のしやすさを向上させたわけです。
さらなる安全性の向上へ
例えば、先代のEクラス(W212)は、運転席・助手席に装備された「リバーシブルベルトテンショナー」の働きで、シートベルトの装着後、自動的に最適な位置まで巻き上げる機能を追加。シートベルトの「たるみ」を防ぎ、万一の事故の際にベルトの機能が最大限に発揮するように調整し、安全性をより一層向上させています。
さらに、Sクラス(W221)やEクラス(W212)には「後席乗員」の体型に合わせて、ベルトフォースリミッターの作動を2段階に調整。「アダプティブベルト・フォースリミッター」を後席に追加装備しました。利点は衝突の際、乗員の体型に応じて適切な力でベルトを保持し、シートベルトの働きをより効果的なものにしたのです。
ベルトとの併用で初めて活きるエアバッグ
シートベルトは、乗員保護補助装置である「SRSエアバッグ」とも深い関係があります。事故の際、乗員を守る絶対的な安全装置ではなく、「命綱であるシートベルト装着」を条件にその効果を発揮するのです。仕組みは、まずシートベルトの装着によって、乗員を衝撃から移動しないように拘束し、エアバッグは、シートベルトで締めた乗員を衝撃から保護するのが役割。つまり、シートベルトとエアバッグの両装置が一体となった働きにより、衝突時の乗員の安全性を最大限に高めるようになっているのです。
事故調査を重ねていくうちに、シートベルトの「乗員保護性能」を助ける為のさらなる安全装置として、1967年に「SRSエアバッグ」の開発をスタート。エアバッグの歴史も意外に古く、実験と検証に続けた結果、13年後の1980年にメルセデス・ベンツは「世界初のSRSエアバッグ」をSクラス(W126)に採用しました。
このように、エアバッグとの関係が非常に重要であることは理解できるでしょう。シートベルトの進化、特に「シートベルト・テンショナー」の開発によって、万一の衝突時に乗員が受けるダメージを大幅に軽減することが可能となったのです。
進化ぶりが見えにくいシートベルトですが、メルセデス・ベンツをはじめとした自動車メーカーは、乗員保護性能を高める為に、あらゆる角度からシートベルトによる高い安全性を追求しているのです。