クルマのシステムアップを容易にするOTA
日産が2019年7月にマイナーチェンジしたスカイラインより対応を開始している、新たなコネクテッドカーサービス「NissanConnect」。これに、ナビの地図更新を無線で自動的に行える「OTA(Over The Air)自動地図更新」が実装されたことで、にわかに「OTA」という言葉に注目が集まっている。情報化社会の中でクルマの乗り越えるべき「峠」はどこなのか、またどこへ向かっているのだろうか。
5Gモバイル通信で可能となる大容量データの移行
ナビのOTA地図更新に関しては、決して新しいものではない。ホンダは「インターナビ・プレミアムクラブ」、トヨタは「G-BOOK mX」、いずれも独自のテレマティクス(自動車向け情報通信)サービス、今風に言えばコネクテッドカーサービスにおいて、2007年より提供を開始している。
そして、クルマの機能や性能をOTAで強化することに関しても、電気自動車のテスラは2012年に発売した「モデルS」の時点ですでに対応を可能にしており、車載ソフトウェアのWi-Fiアップデートを度々実施している。2020年1月時点での最新バージョンは10.0だ。
なおテスラの場合、車載ソフトウェアのアップデートは停車中のみ、Wi-Fi接続できる場所でのみ可能となっており、この間は運転も充電もできなくなるのが現状だ。
こうしたソフトウェアのOTAアップデートに対応したクルマは少ないが、5G(第五世代移動通信システム)が世界各国で実用化されれば、自動車の世界にも急速に普及していくことと思われる。
最新バージョンをすぐにダウンロード
というのも、これからのクルマは「CASE(ケース)」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった4つの代表される趨勢(すいせい)において、先進技術の進化・普及がますます加速していき、各サービスが充実。ユーザーが増えるほど、すでに販売されたクルマに対しても最新の機能をいち早く実装する必要に迫られるであろうからだ。
そうなった時、アップデートが必要になる度にディーラーへ車両を持ち込み、クルマを長時間預けるのは、ユーザーにとってもディーラーにとっても時間のロスが大きすぎ、面倒なことこの上ない。だからそれを、OTAを使うことによりディーラー以外の場所でも可能にすることは、もはや必要不可欠と言えるだろう。
情報セキュリティと安全運転の結びつき
一方、そうした技術のソフトウェアが扱うデータ量は膨大で、現状の4Gの通信網ではアップデートに要する時間が長すぎるのが大きなネック。アップデートの規模にもよるが、前述のテレマティクスナビやテスラ車のユーザーなら、アップデート中に長時間使用不能になりイライラさせられた経験は一度や二度ではないはずだ。
また、OTAでアップデートできるということは、OTAで車載コンピューターを乗っ取り、深刻な機能不全をもたらすことも不可能ではない、ということでもある。
自動運転が設定されているクルマの場合、これがレベル2以上の自動運転に対応するクルマであれば、加減速も操舵も車載コンピューターでコントロールしているため、遠隔操作でテロに用いられる危険性もありうると、すでに指摘されている。だからこそ、OTAに対応するクルマには、車載コンピューターのサイバーセキュリティ強化もセットで対応することが求められる。OTAアップデートが現時点で普及していないのは、そうした実情も踏まえてのことではないだろうか。
そして、筆者が最も懸念するのは、車両の機能や性能に関わるアップデートが容易になることによって、自動車メーカーの中でこうしたソフトウェアに重大なバグ(欠陥)が潜むことに対する危機意識が薄れてしまう恐れもあることだ。パソコンやゲームのソフトのように「バグが見つかったらパッチ(バグ修正プログラム)を作って当ててもらえばそれでいいや」、人の命を左右するリスクを常に抱えるクルマの脳を、そんな低レベルな意識で作られては迷惑千万。
会社の規模に関係なく、全ての自動車メーカーは、OTAで提供するアップデートプログラムも他の部品・ハードウェアと同様に、安全第一で開発していくはずではあるが、そうあってほしいと切に願うばかり。