切磋琢磨で進化してきた日本が誇るクルマ
日本が世界に誇る“モノづくり”によって進化してきた軽自動車。そもそも国内に軽自動車というカテゴリーが誕生したのは、今から70年前、戦後間もない1949年(昭和24年)のこと。当初は全長×全幅×全高(2800mm以下×1000mm以下×2000mm以下)の3サイズが決められ、排気量は4サイクルが150cc、2サイクルが100ccまでと定められていました。その後、何回かの規格変更があり98年からは現行の、3400mm×1480mm×2000mm以下の車体サイズで、660cc以下のエンジンとなっています。
時代時代の規格の中で、ライバル同士が切磋琢磨を重ねてきた軽自動車。当初は、軽便で廉価なクルマとして、より小型自動車に近づこうとしていましたが、現在では軽自動車ならではのバラエティに富んだモデルも存在し、進化しています。そんな軽自動車の歴史をライバルたちとのバトル模様で振り返りましょう。
王者スバルに、ハイパワーで挑んだ挑戦者
【スバル360 VS ホンダN360】
1949年に導入された最初の軽自動車規格は、その後短期間に何度か変更され、55年には車体サイズが3000mm×1300mm×2000mm以内でエンジン排気量は360cc以下と決まり、これが20年余り続くことになります。規格が安定してくると同時にクルマも熟成。メーカーも淘汰されていきますが、結果的に富士重工業(現SUBARU)の『スバル360』がトップセラーとして君臨するようになりました。
その愛らしいルックスから“てんとう虫”の愛称で人気を呼んだスバル360。フルモノコックボディなど、富士重工業の前身であった中島飛行機製作所の技術者が飛行機の技術を注ぎこんで完成させたのです。
そのスバル360に挑んだのが、自動車メーカーとしては新参だったホンダ。2サイクルエンジンをリアに搭載するスバル360に対して、ホンダが投入した「N360」は4サイクルエンジンによる前輪駆動で全く異なったパッケージとなりました。
ただし何よりも特徴的だったことは、当時2輪の世界GPで活躍していたホンダらしく、スバル360を筆頭としたライバルたちを一蹴するハイパワーを絞り出していたこと。N360は、登場直後からトップセラーに上り詰めますが、同時に軽自動車にパワー競争を持ち込むことになりました。
ハイメカのミニカに対してアルトは低価格を追求
【スズキ・アルト VS 三菱ミニカ・ダンガン】
クルマそのものがライバルと言う訳ではありませんが、軽自動車のコンセプトを突きつめていくうえでの好対照な2台が、三菱の「ミニカDANGAN」とスズキの「アルト」でした。
ミニカDANGANは1989年に登場したミニカのホットモデル。当時としては半端ないスペックを武器とし、エンジンはインタークーラー付きのターボを備えるとともに、1気筒あたり5バルブのツインカムヘッドを組み付けていたのです。
同時期のホットモデルとしては、スズキの「アルト・ワークス」やダイハツの「ミラ・ターボ」があり、80年代のパワー競争を思い起こさせるものがありました。
一方でアルトは、パフォーマンスではなく廉価を徹底的に追求。79年に登場した初代モデルは5ナンバーに比べて自動車税が安い4ナンバーとし、エンジンに2サイクルを使用するなどコストを徹底的に切り詰めたモデルでした。
4ナンバーという“裏技”はすぐにライバルメーカーも追随。結果的に「ボンバン(ボンネット・バン)」なるハッチバックスタイルの新カテゴリーが開拓されていったのです。便利な荷物運びクルマとして税制上も安上がりなボンバンが、当時の市場で注目されるようになりました。
マイクロバンとミニSUVの新ジャンル構築合戦
【スズキ・ワゴンR VS スズキ・ジムニー】
軽自動車の新しいジャンルを切り開いたクルマとして、「ワゴンR」と「ジムニー」が挙げられるでしょう。こちらは、ともにスズキ社内の風雲児のトップ争いとでも申しましょうか。
1980年代に入り流行の兆しを見せるようになったミニバンですが、そもそもはアメリカにおけるフルサイズのバンに対して、小型のものを指してこう呼んでいました。それを軽自動車規格(93年当時は3300mm×1400mm×2000mm/660cc以下)の範囲中で成立させたモデルがワゴンRだったのです。
実はそれよりはるか以前、規格が3000mm×1300mmだった72年に、ホンダがライフのフロアパンを流用したマイクロ・ミニバンの祖「ライフ・ステップバン」をリリース。しかし、当時には早すぎたのか不発に終わった経緯がありました。
その点でワゴンRは、折からのレジャーやアウトドアブームの到来にも後押しされ、以後もスズキの屋台骨を支えるヒット商品となったのです。
ところで、アウトドアと言えば見逃せない1台。前述の70年に登場したスズキ・ジムニーです。スパルタンすぎるほどの初代モデルから、乗用車チックにコンバートされた現行型まで、歴代モデルの基本性能はオフロード四輪駆動車の名に恥じないものをキープし続けています。これも軽自動車の進化の一つと言ってよいでしょう。
スポーツカーを軽規格で展開した”平成のABC”
【マツダAZ-1 VS ホンダ・ビート VS スズキ・カプチーノ】
平成が幕開けした1990年代序盤、3300mm×1400mm×2000mm/660cc(それぞれ以下)と、80年代に比べて規格が少しだけ大きくなったタイミングで、3台のミニ・スポーツが登場。それが『平成のABC』と呼ばれるマツダ「AZ-1」とホンダ「ビート(BEAT)」、そしてスズキの「カプチーノ(Cappuccino)」です。
当然ながら3モデルは軽規格に則ってデザインされていましたが、AZ-1はガルウィングドアを持つクーペでエンジンはミッドシップ・マウントという凝ったもの。
ビートもエンジンはミッドシップ配置で、こちらはオープン2シーター。カプチーノもオープン2シーター、いずれも本格的なスポーツカーを目指していました。
また、エンジンは、AZ-1とカプチーノがスズキ製のF6Aの3気筒ツインカムターボ、ビートは3気筒のシングルカムでしたが、パワー的には自主規制値の64馬力で横並び。重量的にはミッドシップ・オープンのビートが760kgと最も重く、AZ-1とカプチーノは700kgそこそこに収めていました。
ただし軽快さではビートが頭一つリードした感があり、カプチーノはベーシックなミニ・スポーツといった印象。AZ-1はナーバスなハンドリングで危険な薫りを漂わせていましたが、いずれも世界に誇るマイクロスポーツだったのは間違いありません。
軽ならではの”小さいこそ魅力”を提案
【スバルR1 VS スズキ・ツイン】
軽ならではのコンパクトな規格サイズをさらに切り詰めたモデルといえば、スバルR1とスズキ・ツインでしょう。一般的には3400mmという全長を活かした軽自動車が主流ですが、2+2のR1は3285mm、2シーターと割り切ったツインは、なんと2735mmと大幅に切り詰めたパッケージが大きな特徴となりました。
軽自動車はパーソナルユースがメインで、3人以上が乗るケースなどは稀ですから、2シーターや2+2で充分。それならばドアも2枚で充分で、そうすることによってボディの剛性も高くなって軽量化も果たせる、と人によってはメリットがあるわけです。
実際、R1の場合は、我田引水にもなりますが3人家族のファミリーカーとしても何ら不自由のない1台として活躍してくれています。
自動車メーカー側では「(軽規格の中で最大まで)大きくしないと買ってもらえない」との判断もあるようですが、小さくて魅力的な軽自動車が登場すれば、自ずと好結果(売上増加)に繋がるのでは、と思う今日この頃です。