中国製EVバスで乗客・乗員の輸送を想定
ANA(全日本空輸)は、ソフトバンクグループのSBドライブなどから協力を得て、2020年1月22日~31日の間に、東京国際空港(以下、羽田空港)の一般車などが出入りできない制限区域内にて大型自動運転バスの実証実験を実施。初日の22日に報道関係者向けの試乗会を行なった。
実証実験は、ANAが2018年より行なっている乗客や空港職員などのターミナル間の移動手段として、自動運転バスを活用する取り組みの一環。外国人旅行者など旅客が近年増加する一方で、空港で働く人手は(生産年齢)人口減により不足傾向にあるという、課題解決の手段として導入を目指している。オリンピックイヤーの2020年内に、試験運用を開始する予定だ。
ANAでは、以前にも2018年と2019年の2回に同様の実験を実施したが、いずれも小型バス(日野ポンチョ)を使用。今回は、車両を大型のEV(電気自動車)バスに変更し、より多くの人員を輸送する実証実験となった。
今回、実験に使われた車両は、「K9RA」という中国BYD社製の大型バス。ボディサイズは、全長12m×全幅2.5m×全高3.4mで、定員57名を乗せることができる。パワートレインは当然ながら電動モーターで、バッテリー容量は324kWh、航続距離は250km以上を達成しているという。ちなみに、BYD社製のEVバスは、2019年に京都のバス会社で導入を開始したことが話題を呼び、日本でも大きな注目を集めている。
実験車両は、これをベースに自動運転車の技術研究・開発企業の先進モビリティがカスタマイズを実施。カメラやミリ波レーダー、GPSなど自律走行に必要な装備を搭載している。
また、今回は、新たにSLAM(スラム)という技術も導入。レーザー照射により周囲の建物など物体との距離を測定するLiDAR(ライダー)というセンサーを駆使し、その情報からデジタルマップを作成して走行中の自車位置を把握するというものだ。
これらにより、GPSが届かない状況下でも、より正確な自動運転走行が行なえるシステムを構築し、レベル3の自動運転を可能としている。
レベル3とは「システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求などに対してドライバーが適切に対応することが必要」というもの。つまり、運転は全てクルマ(のシステム)が行なうが、安全な自律走行ができない場合はドライバーが手動運転に切り替えることが必須だ。
実験では、運転席にドライバーが着席し、いつでも手動に切替えられるように両手をハンドルに近づけた状態で行なわれた。
また、SBドライブが開発した遠隔運行管理システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」も採用。遠隔地にいるオペレーターが、自律走行や車内にいる乗客の状態を常に監視し、安全性に問題があれば警告などを出すようなシステムが組み込まれている。
オペレーターは、さらにクルマ側に何らかのシステム異常が生じた場合などに、車両を緊急停止することも可能。ほかにも、ドアの開閉などを遠隔操作で行なうことができるなど、様々な制御ができるようになっている。
加えて、今回は、自働運転バスに添乗員が乗ることも想定(実験では開発スタッフが担当)。
出発時に乗員の安全を確認した添乗員が、スマートフォンのアプリを使って遠隔運行管理のオペレーターに発車の指示を出すなど、車内側と運行管理側で連携が取れるようなシステムも取り入れられている。
静粛性が高く、制限区域内なので安心
実際の試乗だが、今回の実験では、第2ターミナル内の北乗降場からスポット65(乗降口)間の往復約1.9kmの距離を移動、速度は直線路でも時速20キロまでと低速走行で行なわれた。
乗車した感じは、普通の大型バスとかわりなく、とても安定していたのが印象的。動力が電動モーターのため、ディーゼルエンジンなどを搭載した一般の大型バスと比べ、車内はとても静かだ。
車内も広く、空港内でターミナル間を走るリムジンバスとほぼ同様。海外からの旅行者など、大きな荷物を持った人たちが数多く乗るとさすがに窮屈になるだろうが、広さ自体は問題ないレベルだ。
ちなみに、シートはビニール製表皮で、モケットシートなどを装備したリムジンバスと比べるとややチープな感じがしたが、速度が低いこともあり、座り心地自体はさほど悪い印象でもない。
制限区域内での走行だったため、自動運転車で特に問題となる、他の車両や歩行者が急に車両の前に飛び出してくるといった心配は当然なかった。ルート上には、荷物などを運搬する作業車なども走行していたが、右左折時や一旦停止がある交差点など、他車両との混合交通も問題なくクリア。この辺りは、一般道と違い、乗っている側の安心度もかなり高いと言える。
今回のルートでは、Uターンをする地点があったり、タイトな右左折のコーナーもあったが、これらの走行も自動運転で問題なく走行。特に、Uターンは、過去2回の実証実験では車両安定性の問題でドライバーがハンドル操作を行なったらしいが、今回はシステム側できちんと制御して自律ターンを実施。自動運転技術自体もアップデートされていることが分かった。
一般道より導入時期は早い?!
ANAは自動運転バスについて、前述の通り、2020年内に実用化することを目指しているが、今回のような制限区域内での運用であれば、一般公道と比べ法規などクリアすべき問題も少ないため、より早期に実現する可能性は高いだろう。
ただし、人手不足という問題に対しては、今回のレベル3の自動運転では、運行管理者や添乗員など逆に人員が増える結果となる。危険回避なども含め、完全にクルマが自律走行するレベル4以上の自動運転が導入されない限り、(人手不足という)課題の解決にはならないだろう。
実際にいつ実用化になるのかは、今回の実験結果を待たねばならない。だが、レベル3の自動運転で制限区域内という条件付きならば、早ければ7月からの東京オリンピック・東京パラリンピックで、海外からの観光客などが乗り換えを行なう際などの輸送手段に使うことは可能かもしれない。
当然、ANA側としても、海外から多くの注目を浴びるオリンピック・パラリンピックに、「未来のクルマ」導入を間に合わせたい意向はあるだろう。ただし、乗客の安全に関わることだけに、実施時期ありきではなく、十分な検証や対策などを慎重に行った後で実用化に踏み切ることを望みたい。