距離や乗り方によって変わるメリットの恩恵
2012年以降、マツダや各輸入車ブランドがディーゼル車を積極的に展開してきたこともあり、日本でも「クリーンディーゼルは低燃費で環境に優しい」というイメージが定着しつつある。では、実際のところはどうなのか? 同じように「低燃費で環境に優しい」ことをセールスポイントとする、ガソリンエンジンのハイブリッドカーもあるのだから、気になるもの。比較しながら、ひとつずつ検証してみたい。
なお、ここでは可能な限り単純明快な内容とするため、クリーンディーゼルとガソリンハイブリッドの両方を設定する、新型BMW3シリーズの「320d Xドライブ Mスポーツ」と「330e Mスポーツ」、いずれも日本仕様をサンプルとして比較することにした。
ともに2L直4直噴ターボエンジンと8速ATを搭載するが、前者は4WD車、後者はFRのPHV、という駆動点の違いもあるので厳密な横並びの比較にはならないことをご了承いただきたい。
燃費はクリーンディーゼル
まず燃費に関しては、より実燃費に近いWLTCモード同士で比較すると、下記のようになっている。
<320d Xドライブ Mスポーツ(ディーゼル)>
総合:15.3km/L(市街地、郊外、高速道路の各モードは非公表)
<330e Mスポーツ(ハイブリッド)>
総合:13.1km/L 市街地:9.6km/L 郊外:13.2km/L 高速道路:15.4km/L
EV走行換算距離:52.4km 電力量消費率:4.41km/kWh 一充電消費電力量:11.87km/kWh
唯一横並びで比較できるWLTC総合モード燃費を見ると、ディーゼルの320dがガソリンハイブリッドの330eを、2.2km/Lもの大差を付けて圧勝。ディーゼルの方が低燃費…という結論になるのだが、ハイブリッドは中低速域でエンジンを始動させずモーターのみで走行するEVモードを備えている。この間は当然燃料の消費がゼロになるので、両車の立場は逆転する。
環境に優しいのはガソリンハイブリッド
次に、環境に優しいかについてだが、両車とも最新の「平成30年排出ガス基準」を達成。なお、CO2排出量については両車とも非公表のため、ここでは割愛するが、一般的には熱効率が高く、燃料に対する空気の量も多いディーゼルエンジンの方が、特にwell-to-wheel(油井から車輪まで)で総合的に捉えた場合は少なくなる傾向にある。
では、その「平成30年排出ガス基準」はどのようになっているのだろうか?
<ガソリン乗用車認証基準>
試験モード:WLTCモード CO:1.15g/km NMHC:0.10g/km NOx:0.05g/km PM:0.005g/km
<ディーゼル乗用車認証基準>
試験モード:WLTCモード CO:0.63g/km NMHC:0.024g/km NOx:0.15g/km PM:0.005g/km
上記にある”CO(一酸化炭素)”と”NMHC(非メタン炭化水素)”についてはディーゼル車の方が規制値が厳しく、”NOx(窒素酸化物)”についてはガソリン車の3倍まで許容されている。”PM(粒子状物質)”は両者とも同値。従って、有害物質の排出量ではすでに、ディーゼル乗用車はガソリン乗用車と遜色ないレベルにまで進化した…というより、規制が強化されている。
ただし、ガソリン車に関しては、この「平成30年排出ガス基準」を50%あるいは75%低減レベルでクリアするモデルが、国産車を中心に少なくない。そのため全体的な傾向としては、やはりガソリン車の方が環境に優しいということになる。
メンテナンス費はクリーンディーゼルがやや高い
次にトータルコストは、どのようになるのだろうか? まず車両本体価格は、320d Xドライブ Mスポーツが641万円。一方の330e Mスポーツは667万と、ディーゼルに比べて26万円高くなっている。これは330eがPHVであることも大きく影響しているだろう。
では、維持費についてはどうか。BMWの場合、新車購入から3年間、下記の内容を含んだメンテナンスパッケージ「BMWサービス・インクルーシブ」が自動付帯される。その項目は以下の通り。
・エンジンオイル/フィルター交換
・マイクロフィルター交換
・ブレーキ液交換
・スパークプラグ交換
・ワイパーラバー/ブレード交換
・エアクリーナーエレメント交換
・車両チェック(BMW指定点検)
・法定1年定期点検
・AdBlueの補充
この「BMWサービス・インクルーシブ」には2年延長パッケージも用意されているが、両車とも価格設定は同じ。走行距離が10万kmまでの場合は12万5000円となっている。
ただし、クリーンディーゼルはガソリンエンジンに対しエンジンオイル・フィルターとも交換サイクルが短く、部品代も高価な傾向。そのためメンテナンスパッケージの有効期間以降は徐々に、320dの方がメンテナンス費用がかさむことになりそうだ。
トータルのコスパはクルマの使用状況で決まる
燃料・電気代に関しては、単純に考えれば燃費が良く燃料代も安いクリーンディーゼルの方が圧倒的に有利だが、330eにはEV走行モードがあり、しかもPHVのため外部から電力の供給を受けることが可能だ。そのため短距離の街乗りメインであれば給油する必要はなく、充電だけで済んでしまうため、燃料・電気代はクリーンディーゼルよりもさらに抑えられる。
<10万km走行した場合の燃料・電気代>
320d:軽油¥130/L×100,000km÷15.3km/L=¥849,673
330e(ガソリンのみ):ハイオクガソリン¥160/L×100,000km÷13.1km/L=¥1,221,374
330e(電気のみ):電気¥30/kWh×100,000km÷4.41km/kWh=¥680,272
*軽油・ハイオクガソリン代は2019年12月末時点の全国平均価格、電気代は関東圏内の従量料金の最高額をベースに設定
以上のように、クリーンディーゼルもガソリンハイブリッドも一長一短であり、実際のクルマの使い方によってはその差さえ簡単に埋まってしまう可能性がある。
概して言えるのはやはり、クリーンディーゼルは高速道路を長距離長時間走る人に適しており、ガソリンハイブリッドは短距離の街乗りが中心の人に向いている、ということだろう。