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今の福祉車両は「障がい者向け」だけではない! 「高齢者」目線がクルマを進化させる

高齢化社会を反映した装備が充実

 近年の福祉車両は、ひと昔前と比べてかなり進化してきた。特に、障がい者だけでなく、高齢者にも考慮して乗り降りをより楽にするなど、さらなる装備の充実が図られている。ここでは、そういった最近の福祉車両の進化について考察する。

軽自動車の福祉車両も増加

 福祉車両は、これまでは障がいを持つ人のためのクルマとの印象が強かった。しかし近年は、高齢化社会を反映し、必ずしも身体に障がいがなくても、体の動きに制約を受けるようになる高齢者が快適に乗降し、移動できる視点が加わっている。

 また、福祉車両でも軽自動車の販売台数が増えているのも最近の傾向だ。軽自動車は、税制などの経費で負担が少ないことはもちろんだが、スーパーハイトワゴン(トールワゴンといわれることもある)が、若い子育て家族を支援するため開発され、人気を得るに従い、前後ドアの間の支柱(センターピラー)がないスライドドア車両が生み出された。このように乗降性が改善されたことで、高齢者にも身近な車種となりつつある。

 さらには、トヨタは福祉車両での移動を主眼とした車いすの開発も行い、乗車中のクルマの動きに対し、下肢が不自由で足で踏ん張れない人も、体を支えやすくする工夫が施されている。

 ほかにも、福祉車両といえるかどうかわからないが、高齢化の進む過疎地域など公共交通機関が不便な場所での移動に便利なミニバンの開発も行われている。3列シートを装備するミニバンでは、通常、3列目座席の乗降は2列目の座席を折りたたんだり、人が移動したりの操作をしなければならない。だが、それでは2列目に座った人が3列目に乗降する人のために毎度クルマからいったん降りなければならず、高齢者の負担となる。乗車順と降車順が必ずしもシート配列の順序通りではないからだ。

 そこで、あえて2列目の座席を2人乗りベンチシートとし、その脇から3列目の乗員がいつでも乗降できるようにした仕様を開発している。これも、トヨタの車両だ。

 開発責任者は、「開発したなどと言える改造ではない」と語るが、現場を知るからこそ思い至る改善策である。

 以上のように、福祉車両は、障がい者と高齢者の需要増にこたえるため、進化を遂げている。なおかつ、それを支えているのは、新車の開発段階から福祉車両を想定した設計が採り入れられるようになっていることである。

 かつては、新車が出来上がってから福祉車両のために別途改造作業が必要であった。しかしそれでは、一度出来上がったクルマの一部を切り取るなど無駄な作業が必要だったり、屋根を後からかさ上げしたりするなどにより、原価を引き上げ、販売価格の上昇を招いていた。

 このため、たとえ購入のための補助金制度があったとしても、そもそも販売価格の高さを見て買い控える消費者もあったようだ。そこで、新車の量産ラインから大きく外れることなく福祉車両も製造できる設計・開発を行うことで、福祉車両の新車販売価格が下がっているのも近年の傾向だ。

福祉車両を「普通のクルマ化」する意味

 こうして、福祉車両の普及が進むと、次に課題となったのが、不要になった後の処分である。ことに高齢者向けに福祉車両を利用しよう考えた場合、数か月や数年で不要となる可能性も否定できない。それによる買い控えも生じやすい。そこで考えられたのが、福祉車両の「普通のクルマ化」だ。

 例えばミニバンで、3列目の座席を取り外して車いす用とした場合、従来はそれを元に戻すことが難しかった。しかし今日では、3列目を活かしながら車いすを載せられるようにしたり、あるいは3列目の座席を後から装備できたりするようにあらかじめシート取り付け用の構造を床に施しておくなど、普通の使い勝手を損なわない福祉車両が現れている。

 こうすることで、福祉車両として使われなくなった後もそのクルマが通常のミニバンとして利用し続けられることになる。そうなれば、福祉車両購入への躊躇が軽減される。

 そのほか、一見普通のクルマでありながら、高齢者が乗降しやすいようにした車両も開発されている。後付けで、ステップを装備できる軽自動車をダイハツは新型タントで実現した。また、乗り込んだ後の車内での移動を楽にする取っ手の後付け部品の商品化も行っている。

 これらは、単に社内で新車企画を行うだけでなく、現場・現物・現実の三現主義に基づき、高齢者や医療療法士、そして販売店などとの協力により、実際に高齢者の体験評価を聞きながら新車や用品の開発が行われた成果である。

 

すべての人に向けた新車開発を

 そうした近年の動向の先に見えてくるのは、標準車と福祉車両という区別のない、本当の意味でのバリアフリー、あるいはユニバーサルデザイン(年齢や障がいの有無、体格、性別、国籍などに関係なく、すべての人のためのデザイン)に基づいた新車開発だ。

 たとえば、トヨタ・センチュリーや、旧車となるかつてのスバル1000は、後席背もたれの位置が後輪のホイールハウスより前に設定されている。こうした後席の配置を行うことによって、乗降の際に体を起こさなくても、そのまま体を横へ移動すれば済む。

 些細なことではあるが、これが体への負担を軽減し、力の弱くなった高齢者や障がいを持つ人にとって乗降しやすいクルマとなっていたのである。少なくともセンチュリーは、そうした視点を意識して開発されていた。人を中心にスバル360の開発を行った当時の富士重工業(現SUBARU)は、前輪駆動を活かしたスバル1000において、後席の配置に際し万人にとって乗降しやすいことを考慮したのではないだろうか。

 今日、多くの新車が”人間中心”という言葉を使い開発を行っているとするが、実はメーカーにとって都合のいい面にだけ人間中心だと語り、運転姿勢や視界、あるいは乗降性や、走行中の快適性を含め、消費者優先の人間中心の開発をしているとは思えない節がある。

 これから自動運転の時代を迎えるにあたって、すべての人が同乗者の立場になるとき、バリアフリーの支点で考えたユニバーサルデザインが、乗降性に限らず乗車中の快適性を含め求められることになるだろう。

 障がいを持つ人の社会進出が望まれ、高齢化社会を世界に先駆けて迎える日本にとって、福祉車両のこれまでの進歩にとどまらず、本当の意味で「万人の為」という視点を入れたユニバーサルデザインが求められているのである。それを実行できれば、世界を牽引する次世代車の概念を構築することになる。

 

 

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