「電気自動車」ほどメリットがない「代替燃料車」
環境問題やC02削減が大きくクローズアップされている昨今、ポスト「ガソリン車」としては今、EV(電気自動車)が大きく注目されている。だが、それ以外にも、クリーンなクルマとしてはバイオ燃料や水素、天然ガスやLPGなどを燃料とするクルマも研究はされてきた。では、なぜこれらは今ひとつ実用化などの話が伝わってこないのか。その理由や普及の可能性などを検証する。
バイオ燃料は利用できる地域が限られる
1997年に、トヨタが初代プリウスを発売し、ハイブリッド車による大幅な燃費向上が示されると、世界各地で様々な環境車両の取り組みが起こった。日本では、ホンダや日産がハイブリッド車の開発を行ったが、欧州では、既存のディーゼルエンジン車の改良により、燃費を向上させようとした。そのほうが、新規のモーター開発や、エンジンと電動系の総合制御など、新たな開発費を投入せずに済むためだ。
そうしたなかで起きたのが、代替燃料への取り組みである。いわゆるバイオ燃料といわれるもので、ガソリンや軽油にアルコールを混ぜ、二酸化炭素(CO2)排出量を減らそうというのである。
なぜ、アルコールを使うとCO2排出量が減るのか。理由は、アルコールを農作物から採取するからである。農作物が生育する際、光合成によってCO2を吸収し、酸素を出す。ここでCO2の削減が行われる。そのCO2を、燃料として使って大気中へ放出したとしても、もともと大気中にあったCO2が元へ戻されるだけなので、総量を増やすことがない。バイオ燃料を使って燃費に優れるエンジン車を走らせれば、CO2の増加を抑えることができるという論理だ。
ただし、アルコールだけで走らせようとすると、アルコールにはガソリンや軽油のような油分が含まれないため、エンジンが錆びる恐れがある。エンジンに錆止めの処理を施すか、あるいはアルコールにガソリンや軽油を混ぜて使えば、既存のエンジンを大きく改造せずに済む。ここも、余分な投資をしたくない欧州の自動車メーカーにとっては利点と見えた。
実際、現在のクルマはグローバルで販売されるので、基本的には5〜10%ほどのアルコールが混ざった燃料を使う分には、多くのクルマが走ることができる。
しかし、問題もある。よほど農作物に余りを出しているような地域であれば、アルコール燃料の利点はあるだろう。サトウキビが豊富に収穫できるブラジルなどはその例だ。だが、あえて耕作地に燃料用の農作物を新たに植えるとなると、そう簡単ではない。まず、世界的には食糧不足(8億人以上が栄養不足)であるし、既存の食物の流通と燃料としての作物の流通は異なるため、新たな供給路を構築しなければならない。
また、耕作地と燃料の使用地が離れていれば輸送が必要で、輸送におけるCO2排出量を考えると、既存のガソリンや軽油を運送するのと違わなくなる。バイオ燃料の考え方は、地産地消が基本だ。となると、利用できる地域も限られてくる。
天然ガスやLPGではエンジンのパワーが出にくい
次に、天然ガスや液化石油ガス(LPG=プロパンガス)を、燃料とする方法もある。天然ガスは、すでにバスやトラックで使われはじめているし、LPGは日本のタクシーで利用され普及している。ほかに、水素ガスをエンジンの燃料として使うことも、ドイツのBMWなどが研究したことがある(2006年に発表したHydrogen 7)。いわゆるFCV(燃料電池車)は、水素を使い発電し電動モーターを動かすEVの一種なのに対し、こちらはガソリンの代わりに水素を燃焼させエンジンを動かすタイプだ。
しかし、それらガス(気体)を基本とした燃料は、ガソリンや軽油のような液体燃料を使う場合に比べ、出力が出にくい弱点がある。たとえばハイブリッド機構を採用したジャパンタクシーに乗るタクシードライバーは、発進にモーター駆動を使えるのでLPGのエンジンより加速が良く、運転しやすいと話す。
BMWが水素ガスをエンジンで使用した際、V型12気筒の大排気量エンジンを使っても、出力はガソリンエンジンの半分ほどであった。あるいはスウェーデンのボルボがかつて、バイフューエルとしてガソリンと天然ガスのどちらでも走行できるクルマを販売したが、天然ガスへ切り替えたとたんに出力が落ちた。
以上のように、ガス燃料を使う場合、天然ガスやLPGは家庭のガスコンロやガスストーブでそのまま燃やしても人体への影響がないように、大気汚染防止には役立つが、クルマの燃料としての商品性には欠けるといわざるを得ない。
したがって、日本においてもそれら代替燃料を補給するエコステーションが1990年代後半から2000年代に整備されたこともあったが、利用する車両の普及が進まず、閉鎖されることになった。