クルマの製造や輸送、電力発電なども含めた規制
欧州で、新しいクルマの環境規制としてLCA規制がはじまるかもしれないとの話があるようだ。実際に規制が実施されるかどうかはともかくも、LCAとかWell to Wheel(ウェル・トゥ・ホイール)といった指標は、知っておく必要はあるだろう。だが、この規制を導入しても未来は拓けないことは明らかだ。
LCAとは、ライフ・サイクル・アセスメントの頭文字であり、環境影響評価の意味である。商品の、製造/輸送/販売/使用/廃棄/再利用や再資源化など、それぞれの段階での環境負荷を調べ、評価する。
LCAのはじまりは、米国で、コカ・コーラが瓶と缶どちらをつかうと環境負荷が掛かるかを調べたことを発端とするとされている。
単に利便性がよいかとか、製造しやすいか、運搬しやすいか、使うときに環境負荷がないか、ごみとして捨てられることの影響はどうかなど、商品単体の優劣だけでなく、その商品が生まれる所から、使われて、廃棄され、場合によってはリサイクルされることまでを視野に入れ商品開発を行わないと、世の中に禍根を残すことになるという点は、クルマでいわれるWell to Wheelにも通じるだろう。
Well to Wheelとは、燃料が作られるところから、クルマを製造し、そして使用する段階までのエネルギー消費の試算だ。エンジン車であれば、原油を採掘し、精製し、そして電力を使ってクルマを製造し、そして運搬された燃料で走行する段階までの、環境負荷(主に二酸化炭素-CO2の排出量)を試算する。電気自動車(EV)であれば、発電が火力であるか水力であるか、あるいは原子力であるかなどでCO2排出量が違ってくる。ちなみに、世界の発電は、65%弱で火力に依存している。
環境問題は、それほど多岐にわたり、その課題は複雑だ。そうした視点で物事を考えることは、将来の環境保全にとって有益である。
主力発電方式を「火力」から変える必要性
開発や製造、そして運搬、使用、廃棄の段階でエネルギーは不可欠であり、そのエネルギーが排出する二酸化炭素(CO2)や、汚染物質の有無や量を現状で試算しても、必ずある一定の条件や限定された状況の中での試算となるため、絶対的な評価にはなりにくい。また、エネルギーの供給は、時代と共にその資源が変化していくものであり、過去のエネルギー産業による排出物質の種類や量で将来を語ることはできない。
クルマについて、端的に言えば、電動化の賛否が、エンジンの効率向上と合わせて、Well to Wheelで語られることがあるが、そもそも、世界的に火力発電に依存していること自体が間違っているのである。そこを現状維持したまま、EVとエンジン効率を比較することに何の意味もない。
発電の現状をそのままにしておけば、日々使っているスマートフォンも、パーソナルコンピュータも、冷蔵庫も、身の回りの電化製品はみな火力製品となり、環境保全につながらないのである。1個の排出量は少ないといっても、世界75億の人間が日々の生活で使ったら、排出物質の量は膨大だ。したがって、まず発電をゼロエミッション、排ガスゼロとすることからはじめなければ、いま世界で起きている異常気象は、さらに拡大していくだろう。
国の政策だといっても、国民が強く求め、選挙によって意思を示さなければ政治は動かない。
クリーンな「原子力発電」とEVの普及
そして再生可能エネルギーはもちろんのこと、原子力発電へ転換していかなければ、人類は苦難の道を歩むことになる。
日本では、原子力発電というと核兵器と結び付けられたり、東日本大震災で災害をもたらした軽水炉しか知られていなかったりする。だが、すでに海外では次世代型原子炉の開発や、実用化へ動き出している。それらのなかには、核兵器に結び付きにくい方式や、万一の場合にメルトダウンを起こさない方式がある。
それであるから、スリーマイルを経験した米国や、チェルノブイリを経験したロシアも原子力発電へ動き、世界最大の経済大国である中国も当然ながら原子力発電へ向かっている。だから、京都議定書には調印しなかった中国が、パリ協定には調印できるのである。火力への依存が50%を切るイギリスも、水力が60%近いカナダも原子力発電に目を向けている。島しょ部が多く人口が2億7000万人といわれるインドネシアも同様だ。
そのようなときに、既存の発電による環境負荷を基にしたLCAやWell to Wheelが、未来社会を切り拓くだろうか。発電が排ガスゼロとなれば、EVしか残らないのである。そして発電の排ガスゼロへ、海外では向かおうとしている。
そしてEVが普及すれば、IT技術でリアルタイムなエネルギー需要を把握して効率良く電気を送電するスマートグリッドによって、全体の発電容量を減らすこともできる可能性が出てくる。たとえ欧州でLCA規制が実施されても、それは目先の判断であり、未来は切り拓かないことを肝に銘じるべきだ。
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