国際的な計測方法として生まれたWLTC
クルマ選びの基準はさまざまだろうが、環境性能を重視しているというユーザーは少なくない。その参考となるのが、言わずもがなカタログに記載されているモード燃費だ。古くは10モード、10・15モード、そしてJC08モードときて、現在はWLTCモードで計測されている。
最新モードの「WLTC」とはWorldwide-harmonized Light vehicles Test Cycleの略称で、それまでのJC08などが日本独自の計測方法だったのに対して、国際的な試験法として生まれたモードであることが大きな違いだ。
測り方の細かい違いを挙げていけばキリはないが、WLTCモードは日米欧印韓といった5地域の走行実態に基づいた作成されている。そもそも、計測モードというのは燃費を測るためではなく、規制の厳しくなっている排ガスの測定をするために必要とされている。
そのため国際的な試験法とすることで、各国での排ガス試験を省略することができるなど、メーカーにとって開発コストを軽減することが期待され、ひいてはユーザーメリットにつながる施策といえる。
ちなみに、日本においてWLTCモードを最初に表記したモデルは2017年6月に登場したマツダCX-3。現在ではすべての新型車がWLTCモードで測定され、生産継続車も徐々に切り替わっている。ユーザーレベルでWLTCモードが便利なのは、その結果が4つの数字で表されている点だろう。
市街地・郊外・高速道路別の数値に注目
WLTCモード全体での数値に加えて「市街地」・「郊外」・「高速道路」と3つのモードでの燃費が表記されている。公式見解的にいえば「市街地」は信号での停止や渋滞を加味した比較的低速走行を想定したモード、「郊外」はスムースな流れの走行状態を想定している。「高速道路」は文字通りの理解でいいだろう。
ハイブリッド車は渋滞やストップアンドゴーに強い、クリーンディーゼルや大排気量車は高速燃費が有利といったイメージもあるだろうが、そうした違いを数字で確認できるのでWLTCモードはがクルマ選びに役立つ。自分の想定する使い方やメインで走るであろうシチュエーションにマッチしているかどうか目安になりやすい。
たとえば、最初にWLTCモードを採用したCX-3に敬意をはらって、2リッターガソリン車のWLTCモード燃費を抜き出すと次のようになっている。
WLTCモード:16.0km/L
市街地モード(WLTC-L):12.6km/L
郊外モード(WLTC-M):16.7km/L
高速道路モード(WLTC-H):18.0km/L
一方、ハイブリッド車の代表として1.8リッターハイブリッドシステムを積むトヨタ・カローラの数字を紹介すると次の通り。
WLTCモード:29.0km/L
市街地モード(WLTC-L):27.8km/L
郊外モード(WLTC-M):32.2km/L
高速道路モード(WLTC-H):27.7km/L
絶対的な数値の違いは無視して、どの領域を得意としているかという視点で見比べてみると、CX-3は高速道路でもっとも燃費がよく、カローラは郊外で燃費がよくなっていることがわかる。燃費がいいからといって走り味のマッチングもよいとは言い切れないが、自分の使いたい領域にクルマとしての特性が合っているかどうかを判断するひとつにヒントにはなるだろう。
ところで、WLTCモードの数値は、おおむねJC08モードより悪化している。カローラはJC08モードの表記もあるが、その数値は35.0km/Lで、WLTCモード燃費は29.0km/Lとおおよそ8掛けといった感覚だ。そうなるとWLTCモードのほうが実際のカーライフにおける燃費に近いという風に考えがちだが、そうとはいえない。
測定モードというのは、あくまで特定の走り方をするということである。リアルワールドと同じになることはない。健康を意識して運動をしている人ならば体感しているだろうが、おなじ1kmであってもウォーキングとジョギングでは消費カロリーは異なる。
さらにいえば、体重によっても異なるし、微妙なペースの違いでも消費カロリーは異なってくる。クルマにとっての消費カロリーは、すなわち燃費といえる。モード燃費というのは、どんな測定方法にしたところで、特定の走り方での燃費を示すのに過ぎない。それが、各人のリアルワールドでの走り方に完全一致することはあり得ないのだ。
カタログ燃費はあくまで参考と考えるべし
カタログ燃費の数字は必ずしも良くなっている(盛っている)とはいえない。郊外の信号がほとんどないような国道を60km/h程度のペースで走っていると、カタログ燃費より優れた数値を出すクルマは少なくないし、大排気量車で高速道路を80km/h巡行したときもカタログ値を超えることは珍しくない。もちろん、測定モードが想定する以上の渋滞やノロノロ運転が続くとカタログ燃費を大きく下回ることもある。
いずれにしてもカタログ燃費というのは、参考値でしかない。だからといって「現実と乖離した役に立たないデータ」と切り捨ててしまうのもナンセンスだ。せっかくWLTCモードは3つのシチュエーション別の数字が表記されているのだから、そうしたデータをクルマ選びに役立ててほしい。