クルマのシートに座るのも手だが…
高齢化社会を視野に回転シートを採用する福祉車両が増えてきており、クルマでの移動が長くなる場合には、車いすから乗り換えてクルマ本来の座席に座る方法もあるだろう。ただし、車いすからの乗り換えが困難な症状や体調もあるだろうから、すべてに通じるわけではない。
その回転シートの福祉車両も、座席が車体の外へせり出す機構なので、乗降場所にそれなりの広さが必要になる。車いすからの座り替えでも、駐車枠に広さのゆとりが必要だ。たとえば、高速道路のサービスエリアなどの車いす用駐車場は、そのために余裕のある広さが確保されている。
クルマ側の工夫として代表的なものは、トヨタのウェルキャブ(福祉車両シリーズ)に設定があるリフトアップシートにチルト機構を備えたものだ。このタイプでは、座席の外側へのせり出しを抑え、座席を傾斜させることでさほど広いスペースを必要とせず乗降性も高めている。
運転支援機構で車いす移動を快適に
以上のような、クルマ側の改良や、乗車専用の車いすの開発にとどまらず、近年の運転支援機能が車いすでの快適な移動を助ける期待もある。
アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の車間距離制御や、レーン・キープ・アシスト(LKA)と呼ばれる車線維持機能を利用すると、運転者の余計な操作を減らすことができる。もちろん、人が運転しても、先読み運転ができ、加減速や操舵に無駄な動きのない操作のできる運転者であればよいが、一般的には、アクセルとブレーキを頻繁に操作したり、ハンドルを切り遅れたり、切り込みすぎたりして走行中の車両が前後左右に揺れる運転をし続ける人もある。
しかし運転支援機能を活用すれば、無駄な操作による車両の余計な揺れを抑えることができるので、たとえば3列シートのミニバンの3列目に乗車していても車酔いを起こしにくくなる。同様に、ほぼ後輪の上に乗車することになる車いすを利用する人も、ミニバンの3列目と同様に揺れが抑えられれば、体を支える力も少なく済むのではないか。
こうしたことから、そもそも後席に着座する人がより快適にクルマで移動できるようにするため、テストドライバーとして現代の名工に選ばれた日産自動車の加藤博義氏には、「福祉車両を含め同乗者が快適に移動できる操縦安定性や乗り心地を作ってほしい」と、かつて依頼したことがある。
将来的な自動運転を視野に入れるなら、乗車する全員が同乗者と同じ立場となり、クルマのどの位置に着座するかも、共同利用の場合は自ら選べない場合もあるかもしれない。そこで車いすを使う人や、同乗者にも快適な乗り心地の作り込みは、将来の自動運転車の快適性にも通じる話なのである。
福祉車両の開発や進化は、標準車と区別した特別なことではなく、将来へ向けた理想的なクルマ作りにつながる。福祉車両の開発が自動車メーカーのなかでより重要視され、将来につながる取り組みをいまからはじめてほしいと願う。