大柄ボディでも扱いやすい質実剛健な1台
陸上自衛隊が装備する「高機動車」は、イラクなどの海外派遣から国内では災害派遣などに広く使用される車両。高速道路などで目にしたことがある人は多いかもしれない。今回の「大阪オートメッセ2020」の自衛隊ブースには、数々の自衛隊車両を展示。陸上自衛隊・第36普通科連隊所属の山本さんにテーマである高機動車についてお話を伺ってみた。
まず、高機動車とはマイクロバスとトラックの中間的な存在で、トヨタの「メガクルーザー」をベースに製作。主に人員や物資などの輸送に使用される車両だ。そのルックスから「和製ハマー」と呼ばれる国産車ベースだけに、特殊な形をした装備車の多い自衛隊車両の中では親しみを感じる車両といえるだろう。
ボディサイズは全長4910mm、全幅2150mm、全高2350mm、車両重量は2550kgと、ランドクルーザーよりもひと回りほど大きいという印象。エンジンはトヨタ製4.1リッターのディーゼルターボを搭載し、最高速度は125km/hと、自衛隊車両の中ではかなりの俊足ぶり。さらに4輪操舵機能「4WS」を装備するため、最小回転半径は5.6m(ランドクルーザーは5.9m)と小回りが効くため、大柄ボディながらも運転しやすいそうだ。
展示車両は「第36普通科連隊(伊丹駐屯地)」に配備されている実車。主な用途が人員輸送や物資輸送なので、車両に武器の装備はなく、防弾構造にもなっていない(イラク派遣時には防弾ガラスや防弾板が追加されたそう)。後席のロールバーには、必要に応じて機関銃をセットして射撃できるようになっている程度だ。
写真のように外装を見ると質実剛健そのもの。ライト類に破損防止のガードが付いていたり、パンクしても走行可能なランフラットタイヤ(民生用メガクルーザーは通常タイヤ)を装備しているくらいで、特別な装備はほとんど見当たらない。
ヒーターが唯一の快適装備
内装も非常に質素なモノ。いわゆる内張りは一切なく、ドアも床も鉄板ムキ出し。床の丸い穴からは浸入した水を即座に排出可能で、前席サイドの窓ガラスは手動スライド式で5段階に開閉する仕組み。快適装備はヒーターくらいで、あとは演習などで長距離移動をする車両にはETCが装備されている程度だ(一部車両はエアコン装備)。
乗車定員は民生用メガクルーザーの前席2名、後席2列4名の合計6人に対し、高機動車は前席2名は同じながら後席8名の計10人乗り。その後席は横向きに座るベンチシート仕様となり、折り畳みが可能なので物資運搬時には畳んで使用するそうだ。後部座席の快適装備もヒーターのみ(シート下に装備)。大阪オートメッセ開催時は2月ということもあり、後席前部にはタイヤ専用チェーンが積み込まれていた。
特殊装備が多い自衛隊車両は内装を見せてもらえないことが多いが、高機動車は運転席から後方スペースまで開放。子供達にも大人気の車両となったようだ。
なお、今回の展示車両は2019年9月の台風災害に際して、停電のひどかった千葉県および神奈川県での災害派遣に参加。現場での活動を支える車両として、貴重な任務を全うした1台であり、まさに働くクルマの代表ともいえるのだ。