市街地での恩恵や車両価格差をどう考えるか
いまや当たり前の装備なってきた「アイドリングストップ」。信号待ちなどで自動的にエンジンを停止、発進時にブレーキから足を離したり、アクセルを操作すると、プルンと再始動して違和感なく走れる機能だ。
アイドリングストップ機構は、軽自動車への採用も増えているし、二輪ではスクーターにも装備されている。これまではクルマが動いていないのに燃料を消費している状況だったわけで、それ自体は無駄でしかないといえるだろう。
空調を動かすなどの必要性があるときもあるが、地域によっては駐車中のアイドリングを禁止していることもある。アイドリングストップは環境負荷の軽減としては正義というのがコンセンサスだ。
ただし、アイドリングストップ機構は、非装着のクルマと比較するとコスト高なのも事実。エンジンを始動する回数が多くなるためスターターモーターの耐久性を上げる必要があるし、スムースな再始動を狙ってスタータージェネレーターを採用するクルマもある(これは減速エネルギー回収も兼ねている)。
そして、エンジン始動のエネルギーを担うバッテリーについてもアイドリングストップ専用品が必要。クルマのコストは必然的に上がってしまうわけだ。それを負担するのはユーザーであって、アイドリングストップにより燃料消費量が減ったとしても、その差額で十分にコストアップ分をカバーできるかは走行距離や乗り方による。絶対に燃費の向上分で車両価格の上昇分を埋めて余りあるとは断言できないのだ。
乗り方によっては”燃費向上”の期待は少ない
そして、アイドリングストップがもたらす”燃費向上”にも疑問の声がある。というのも、現在の燃費測定モードである「WLTCモード」は、それまでのJC08モードに比べて、信号待ちなどを想定した停止時間を短く設定。そのため、アイドリングストップの効果が出づらいとされている。
また、外気温が低いとき、エンジンの暖機が一定以上に進んでいないときにはアイドリングストップしない制御が入っていることも多い。乗り方や環境によってはアイドリングストップの恩恵を受けづらいこともあるわけだ。
言わずもがなだが、信号などの多い市街地走行に燃費改善が期待できる機構のアイドリングストップだが、高速道路をひたすら走るような状況では無用の長物。もちろん、こうした向き不向きの傾向はどのような機構にもあるため、アイドリングストップだけがネガティブの対象となるわけではないが「使い方によってはコスト上昇分ほどの恩恵を受けることができない」という声が生まれるわけだ。
大容量バッテリーが高コストに繋がる
さらに問題は、アイドリングストップ専用のバッテリーが高価なこと。アイドリングストップ機能の特徴は、単にエンジンを止めるだけではない。
一般的なクルマはエンジン停止時(アイドリングストップ中)にはカーナビやエアコンは止まってしまうが、アイドリングストップ機能搭載車は電装品を可能な限り動かし続けることが可能(エアコンは停止するが、送風は続けるなど)。そのため、カーナビやエアコンなどをバッテリーからの電力供給だけで動かせるよう、タフなバッテリーが搭載されている(エンジンルーム等に置かれている鉛タイプ)。
それなりに放電しても耐えられ、またエンジンが始動後にすばやく充電する能力が必要。さらに、前述したスタータージェネレーター搭載車では小間切れの充電となるため、充電受入性が求められる。いずれにしても、アイドリングストップに対応した高性能なバッテリーは高価になってしまうのだ。
当然ながらバッテリーへの負担も大きいわけだから、寿命も短い傾向。車検ごとに従来品よりも高価なアイドリングストップ対応バッテリーを交換するとなると、ますます燃費改善分ではカバーできないほどコストがかかることになる。そのため「アイドリングストップ機能をオフにしていたほうがバッテリーの寿命が伸びますよ」といった本末転倒的なアドバイスをするディーラーマンもいるという。
ただしバッテリーを車検ごとに交換する必要があるかといえば、こちらも使用状況によって異なる。筆者のケースだが、アイドリングストップ付きのクルマで最初の車検を迎えたときにバッテリー電圧を測ったが規定値をクリアしていて、拍子抜けしたことがある。もちろん、交換せずにそのまま使っている。
走行距離が年間5000km程度と短かったのもあるだろうが、逆にほとんど街乗りだったためバッテリーへの負担は大きい乗り方だったにもかかわらずだ。逆に、使い方によってはアイドリングストップ機能が非装着のクルマでも毎年のようにバッテリー交換が必要なケースもある。傾向としてアイドリングストップ付き車はバッテリーへ負担がかかりやすいのは事実といえるが、必要以上に不安になることもない。