「負の遺産」を抱えて正念場を迎えた日産
日産自動車の経営状況がよくない。2019年度第3四半期の決算を見ると、売上高は7兆5073億円と前年同時期(2018年度第3四半期)比でマイナス12.5%でしかないが、営業利益はじつに82.7%も減った543億円。経常利益についても4718億円に対して70%減の1414億円まで落ち込んでおり、当期純利益にいたっては3167億円に対して393億円と大幅な減益となった。
こうした日産の状況はゴーン氏が日産を去ったのとほぼ同じタイミングからはじまった。そのため、ゴーン氏不在によるもの、もしくはその混乱の結果と感じている人もいるかもしれない。しかし、実際はそうではなく、ゴーン氏が日産のかじ取りをした結果が今につながっているのだ。
なぜならば、企業は長期計画に基づいて経営方針を決めるので、トップが去ったからと言って短期間に急激に方向転換が起こるわけではないからである。肝心のクルマの商品計画も然り。自動車は企画してから商品化まで、少なくとも3年以上の年月がかかるプロジェクトだ。ゴーン氏が去ってからの経営、特に商品戦略に関してはこれから徐々に反映されていく段階であり、ゴーンが不在になったからと言ってすぐに変わったわけではない。
だから、日産の現状は「ゴーン氏が去ったから」ではなく「ゴーン氏が生み出したもの」といえるだろう。
では、ゴーン氏のもとで遂行されたクルマ作りのどこがいけなかったのだろうか? なぜ商品に魅力がなくなってしまったのだろうか? 純粋な経営不振の理由追及とは異なるが、自動車好きの視点からそれらについて考えてみよう。
効率を求めすぎて、日産のイメージが薄くなった
国内市場を見ればわかりやすい。「デイズ」「ノート」「セレナ」そして「エクストレイル」と、日産は売れ筋商品をしっかりとラインナップしている。効率を考えれば実に賢い商売をしていると言えるだろう。
いっぽうで、効率を求めるがゆえに売れ筋以外の商品は多く廃止されたり、フルモデルチェンジを実施しないことで魅力が衰えていった。たとえばセダンは「スカイライン」を除けば、たとえ海外で新型が販売されているモデル(ティアナやシルフィ)でさえ、日本は旧タイプがそのまま販売されており、もはや魅力を感じさせない。
先進技術への投資を絞りすぎた
かつては「技術の日産」とも呼ばれ、昨今も「可変圧縮エンジン」など世界に誇る技術を開発している。しかし、日産のクルマに搭載されている先進技術は他社に比べると控えめだ。
例えば、いまや新型車では常識となっている「アダプティブヘッドライト」は、日産では昨年まで搭載車のラインアップなし。他メーカーではコンパクトカーでも採用例が増えているのに、日産はいまでもセレナにしか設定されていない。
一事が万事でこういった例は少なくなく、結果として「日産車の商品としての魅力」が低下したのである。これは「投資した分の売り上げへの反映がなければ採用を認めない」という、目の前の利益だけを求めたゴーン体制下の商品企画がもたらした結果でだ。
ガソリンエンジンとモーターを融合した電動パワーユニット「e-POWER(イーパワー)」は、先進的な技術と思うかもしれないが、技術的に新しいのではなく発想が新しい商品である。
販売奨励金という制度の多用
これは日本よりも北米で大きな問題となっているのだが、低下した人気を支えるためにメーカーから販売店へ「販売奨励金」という車両を売るための補助金に相当するお金を出し、それを使って値引きを増して販売台数が落ちるのを防いだ。すなわち、値引きを増やして購入価格を下げることでクルマを多く売ったのだ。
しかし、「販売奨励金」にはデメリットもある。下取り価格が暴落し、ユーザーに「日産車を買うと後で痛い目を見る」というイメージを植え付けてしまった(実際には安く買っているのでユーザーは損をしていないのだが)。かつての「マツダ地獄」と同じ落とし穴に引っ掛かり、北米での利益率が落ちてしまったのである。
それら「ゴーン体制」のほころびが重なった結果、日産は昨今の経営状況に陥ってしまったのだ(ただしフォローしておくと、利益率が悪化した理由のひとつに為替の影響もあり、それは差し引いて判断する必要がある)。
今後の日産はどうすれば立ち直るか? 経営視点からもいろいろなポイントがあるが、クルマ好きからみると「目先の数字だけでなく、将来を見据えて魅力あふれるクルマを多く発売し、みんなが憧れるブランドになる」ということに尽きるだろう。