この記事をまとめると
■レギュラーとハイオクの違いはJIS規格で定められている
■レギュラー仕様のエンジンにハイオクを入れるのは問題なし
■ハイオク仕様のエンジンにレギュラーを入れると保護のため制御が変更される
オクタン価の違うガソリンの使い分け
日本で販売される「自動車用」ガソリンには、レギュラーとハイオク(プレミアム)の2種類があって、主な違いは「オクタン価」なのはよく知られている。オクタン価とは、ガソリンエンジンの大敵である”ノッキング”の起こしにくさを表すもので、日本工業規格(JIS)ではレギュラーが89.0以上、ハイオクは96.0以上となっており、数値が高いほどノッキングを起こしにくいというわけだ。
ノッキングとは、スパークプラグで混合気に点火した後に、エンジンの燃焼室の端にある未燃焼ガスが、高温高圧にさらされることで自己着火をしてしまうことで、カンカン、キンキンという金属音を出し、最悪の場合はピストンやシリンダーヘッドを溶かすなどの致命的な破損を生じさせる。
ハイパワーエンジンでは、高圧縮比化やターボ&スーパーチャージャーなど、ノッキングしやすいのでハイオクが推奨されるし、またその前提でエンジン仕様や制御プログラムのマッチングを行なっているのでパワーも出しやすくなっている。エンジンの効率が上がるということは、燃費向上やCO2削減にもなるわけだ。
レギュラー仕様車にハイオクガソリンを入れたら
では、「ハイオクをレギュラー仕様車に入れたら大丈夫?」という点だが、これは特に問題はないし、状況によってはメリットがある。まず、現在のエンジン制御は燃費や環境対応の点から軽自動車であっても非常に高度なメカニズムの採用と制御が行なわれ、レギュラー仕様もノッキング寸前の制御を行なっている。
その制御に代表されるのが、スパークプラグに火花を飛ばすタイミング。つまり、点火時期のセッティグである。ノッキングは、ガソリン品質のバラつき、気圧、外気温、水温、運転方法など発生する条件が多数あって変動しやすいので、ノックセンサーという監視システムがついている。昔は、悪条件を見込んで何事も余裕を持たせたセッティングとしていたが、それでは燃費が稼げないので、現在はエンジンの状況を随時把握して、学習制御を行ないながらベストな状態へ補正しているのだ。
筆者は以前に、軽自動車のNA(自然吸気)エンジン車にハイオクガソリンを入れ、フル加速した際の加速度や車速をデータロガーに記録する実験をした。当初は何回走ってもレギュラーと全く変わらず、記録グラフもピタッと重なり、繰り返しテストでの再現性に驚いたくらいだった。
一般的に発進時のアクセルを踏んだ瞬間がノッキングを起こしやすいので、エンジンコンピュータはそれを見越してノッキングを回避する制御(点火時期を遅くするなど)を行なうのだが、ハイオクを入れたことで制御の度合が弱まったのだと思われる。こういったレギュラー仕様車にハイオクを入れたときの違いは、ハイオク仕様車にレギュラーを入れたときの違いよりも体感度はウンと小さいので、一般ドライバーには価格差に見合ったメリットは感じにくい。
しかし、季節限定であればメリットもある。例えば、夏場は外気温が高い(エンジンの吸入空気の温度が高い)、水温が高い、エアコンの負担も大きい。さらに、渋滞にハマるとエンジンルーム内の吸入気温も上がるため、ノッキングの条件が揃ってしまいパワー感はかなり落ちる。そんな意味でも夏のハイオク使用は多少なりの恩恵はあるだろう。
燃費向上やエンジン洗浄効果も
このような熱ダレ対策として「夏のハイオク」利用は、一般的なエンジンに対しても手軽かつ有効な方法だと思われる。さらには前述の学習制御リセットとの併用が理想。もし、加速度や走行スピードをレギュラーと同等にした運転ができればエンジンの効率が上がった分、燃費向上も見込めることになる。金額的に厳しいということであれば、ハイオクをタンクの半分くらい入れる混合使用も悪くないだろう。
先述のとおり燃費でいうと、理論的にはオクタン価の話を抜きにしてもハイオクが有利。ハイオクはレギュラーに対して3%ほど密度が高い(簡単にいうと重い)ので、同じリッター数を積んでいても同じエネルギー使用量であれば重い分だけ消費が少なくて済むという”リクツ”だ。ちなみにこの図式はガソリンvsディーゼルにも当てはまり、軽油のほうがガソリンより1割近く重くて有利となっている。
また、使い古したエンジンあるいはカーボンの溜まりやすいエンジンにもハイオクは効果がある。というのも、燃焼室にカーボン等のデポジット(堆積物)が溜まると、それらが炭火みたいに着火源や熱源となってノッキングしやすくなってしまうのだ。
この場合、本来はデポジットを除去するのが先だが、有害なノッキングを抑制するという意味で効果がある。ひと昔前の直噴ガソリンエンジン車では、レギュラー仕様でもディーラーでハイオクを推奨していたという話も聞くが、カーボンが溜まりやすくノッキングしやすかったことへの対応であろう。
なお、ハイオクには洗浄剤が添加されているというのもよく聞くハナシ。ガソリンを吸気バルブの手前で噴射するポート噴射式エンジンでは、吸気バルブのデポジット防止に大きな効果が持つのだ。ただし、やや斜めに構えた見方をすると営業政策上、高価格のハイオクへ付加価値をつけるという意味あいもある。
ちなみにアメリカでは、レギュラーにも清浄剤を入れるのが義務付けられているそうだ。日米のガソリン品質の違い(日本の燃料品質は世界トップレベル)を考慮しても本来はそれに習うべきなのではないか? と思う。
ハイオク仕様車にレギュラーガソリンを入れたら
ここまでの話とは逆に「ハイオク仕様車にレギュラーを入れた場合」だ。自動車メーカーでは、ハイオクが入手できなかったことも考えてエンジン破損に至らないように制御プログラムを変えるようにしている。
ロジック例としては、ノックセンサーでエンジン始動時あるいは走行時にノッキングを検知すると、レギュラー用の点火時期を遅くしたものとし、ターボ車ならば最大ブースト圧を下げる制御マップに切り替えるようにしているのだ。
ドライバーは、加速力の低下などを感じることもあるが、エンジンによっても症状の出方が異なる。古めのターボ車で圧縮比が9あたりかそれ以下であれば、おとなしく走る分には違いを感じないかもしれない。というのも、圧縮比が低い状態ではそもそもノッキングしにくいので、ブースト圧を掛けない限り普通に走れてしまうわけだ。
一方でハイオク指定車にレギュラーガソリンを入れるとリスキーなケースもある。高圧縮比のハイチューンドNAエンジンだ。エンジン自体の要求オクタン価が高いため、制御側でノッキングを回避するマージンが少なく、ノッキングによるダメージの影響を受けやすい。
筆者は圧縮比13のバイク(98以上のハイオク指定でノックセンサー付)に、レギュラーを入れてみたが、60km/hまでの緩い加速でもカリカリとノッキングが発生し、まともに走れたものではなかった。また、トヨタ86(圧縮比12.5)でもレギュラーを入れるとやはり街乗りレベルの加速でもノッキングの発生が目立った。そのままサーキット走行したために直噴インジェクターのシールが溶けて吹き飛んだ事例もある(該当シールはFA20エンジンの弱点だが、この事例では強化品を入れた状態で発生)。
このように、ハイオク車へのレギュラー給油はノッキングを判定してアクセルを戻すなどの対応ができない人は行なわないよう気をつけたい。