コンセプトが変わったのも時代の流れ
車名というのはじつに難しいものである。クルマのキャラクターを的確に表さないといけないし、響きもいいものでないとダメ。さらに覚えやすさや親しみやすさなども重要になる。自動車メーカーには車名を専門に考えている部署があるほどだ。
悩ましい車名の問題だが、方法のひとつとして「過去に使用した車名」を復活させるというのがある。ある程度は認知されているので馴染みがあるし、クルマのキャラクターもわかりやすい。このパターンはけっこうあるのだが、「昔の名前で出ています」が必ずしも成功するとは限らないのもまた事実。財産の食いつぶしみたいな結果になってしまうのは残念なのだが、今回はそんな「復活車名」にスポットを当ててみた。
三菱・ミラージュ
スホーティなハッチバックで、1980年代から1990年代にかけてはワンメイクレースでも人気を誇ったのが「ミラージュ」。副変速機付きマニュアルトランスミッションのスーパーシフトも話題で、あか抜けたデザインも魅力だった。
初代モデルから続いた車名は24年の歴史に終止符を打つが、2012年に同じコンセプトとなる、コンパクトハッチを登場させる。デザインは決して悪くはないが、走りにキレがなく、低価格戦略もあり、かつてのイメージをうまく継承できなかったという印象。燃費の偽装問題もあり、一時は販売を中止するなど苦戦が続いている。
スバル・ジャスティ
1984年に登場した初代「ジャスティ」は、スバル初となる1リッターエンジン搭載のコンパクトハッチバック。世界で初めてCVTを採用したことで話題になり、デザインも直線基調でクリーンだったりと、販売面でも成功したモデルだった。しかし、後継車はなく1994年に販売終了となってしまう。
ジャスティという名前が国内向けとして復活したのは、22年後の2016年のこと。ダイハツ「トール」のOEM供給モデルとして販売されたが、同じくOEMでトヨタの「ルーミー」&「タンク」との3兄弟車という珍しいパータンとなった。 軽トールワゴンなのでキャラクターは初代は全くと違うし、なぜスバルでもトールの兄弟車を売らないといけないのか、よくわからずじまいである。
マツダ・キャロル
マツダのキャロルは1962年に登場した軽自動車で、斬新なデザインと360cc直4エンジンといったユニークな機構でも注目すべき、名車だった。RR(リアエンジン・リアドライブ)+ノッチバックという個性的なデザインも然り、多くのファンを抱えていたが、1970年に後継車のシャンテにバトンタッチしてしまう。
マツダにとっても大切な車名のハズなのだが、1989年に復活したと思ったら、現在にいたるまでスズキ・アルトのOEMというのは微妙な感じ。 すでにマツダは軽自動車作りからは撤退しているし、イメージがはっきりしているから付けたのだろうが、歴史からするともったいない気もする。
日産・クリッパー
クリッパーの元祖を知っている方は相当のクルマ好きと言っていいが、もともとプリンス自動車のトラックで、なんと1958年に登場。その後は3代まで続くことになるが、1981年にクリッパーの名前は消滅してしまう。そして2003年に日産初の軽バンとして、”NV100 クリッパー”というネーミングで復活。ただし、三菱のミニキャブやスズキのエブリイのOEM車という位置付け。
残念な復活というよりも、よくそんな古い車名を引っ張りだしてきたな、というのが正直というか、正しい感想だ。
トヨタ 86
ハチロクから86。そもそも正式な車名(元祖はスプリンタートレノとカローラレビン)での復活ではないし、販売面やクルマの作りとしては成功したと言っていいだろう。このご時世に気軽なスポーツカーを作ってくれたのには大感謝である。
ただ、AE86、つまりハチロクと同じキャラというか味わいかというと、微妙な感じ。やはり世代を超えて愛される、86には超えられない偉大さがハチロクにはあったと言っていいだろう。
スズキ・ハスラー
これは流用復活というのが正しくて、もともとは1969年に登場したバイク(TS250)の愛称で、ジャンルはオフロード。
現在のハスラーがクロスオーバーSUVというキャラクターと、かろうじて被るところはちゃんとある。クルマとしての歴史は浅いものの、知名度は高く浸透している。
バイクからクルマになってしまったが、モデルチェンジした2代目の受注も絶好調。ハスラーらしい遊び心は健在といえるだろう。
今回取り上げた以外にも、ホンダはセダン勢で多くの復活車名があったりするが、よく考えるとかなり特例な感じだ。そもそもセダン不振は車名が保守的というか、昔からのイメージを引きずりすぎなのも理由のひとつだけに、セダンであえて昔の車名を復活させるという戦略は冒険しすぎな気はする。
クルマ好きとしては、復活するのはうれしいことはうれしいのだが、すっきりしないのもまた事実だ。