市場への流通が滞る可能性は低くない
世界中に影響を与えている新型コロナウイルス。2000年代に入ってから社会に大きく影響を与えた新しいコロナウイルスで、代表的なものといえばSARSやMERSだが、特性の違いにより、それらに比べると感染が大きく拡大している。いま、世界の自動車業界に与えている状況はどうなっているのだろうか。
まず大きな影響を受けたのは、自動車の生産ライン。工場の停止を余儀なくされている。まず、発生源ともいわれる中国・湖北省に生産拠点を構える日産やホンダは操業を停止。現地での流行は終息しつつあるといわれ、すでにどちらも生産を再開したが、生産のペースは通常通りにまでは回復していない。日本の自動車メーカーは湖北省だけでなく中国の他地域の工場もすべて生産を再開しているが、部品供給が不完全なだけでなく、移動制限の影響を受けた人手不足もあり、本格稼働には長い時間を要する見込みだ。
約1ヵ月半の操業停止と今後も続く減産により、今年の中国における新車供給台数は大幅ダウンを免れないだろう。そして、生産停止は中国に限った話ではない。
現時点で感染拡大が深刻になっている欧州では、最大手のフォルクスワーゲンが欧州の大部分で工場の操業停止を予定している。ルノーは、フランス国内にある12工場の生産ラインを「無期限」で止め、FCAやPSAも稼動を停止中。トヨタも欧州の主力のひとつであるフランスの工場を3月31日まで操業停止としている。とはいえ「3月31日」というのは目安に過ぎず、状況によってはさらに長引くことだろう。
当然ながら操業が止まるのは部品工場だけに限らず、部品を作る下請けの生産施設にまで影響は及ぶ。その結果として起こるのが部品不足だ。完成車工場のラインを動かそうとしても、部品が納入されなければフル稼働はできない。完成車工場は合理化により部品在庫を持たないのが一般的で、部品供給の状況次第で操業は綱渡りとなるのだ。
現実に、日本国内でも日産は九州工場、追浜工場、栃木工場などで生産ラインを一時休止。原因は中国から輸入する部品供給不足だ。これは単に中国での部品生産が間に合っていないこともあるのだが、それ以外の要因もある。”物流”が滞っているのだ。
中国国内で物流が停滞したことに加え、現在、日本へ輸入する際の船便もコンテナ不足(中国内での物流停滞により膨大な数のコンテナが中国内で留まっている)などの影響により通常通りには行われていない。
日産は、生産への影響を最小限とするためとするために、輸送をスピーディに行うべく通常は船で行われる部品の一部を空輸する計画をたてたという。しかし、定期便の欠航が相次いだことで交通貨物も停滞気味。そのうえ空輸するための梱包作業や手続きも需要増加によって遅れがちとなっている理由もあり、部品供給が順調に進んでいないのが現実だ。
さらに、工場内で新型コロナの感染者が確認されれば、その影響でラインが休止することも考えられる。日産に限らず各社ともに、日本での自動車生産もしばらくは綱渡りとなるだろう。
また、部品不足が影響するのは完成車だけに限らない。オーディオやカーナビ、ドラレコなど、後付け用品の本体、もしくは部品の一部を海外で生産しているケースは少なくない。極端にいえば、付属品のコネクターが1本足りないだけでも製品としては出荷できないのだ。 そのため完成品の市場への流通が滞る可能性は低くない。中国が落ち着いたといっても、生産拠点は東南アジア各地にもある。その影響は、これからジワジワと出てきそうだ。