初心者に多い”ムダな力”が入っているケース
クルマの運転における”上手い”と”下手”を判定するのに、必ずしも実際の走りを見る必要はない。ハンドルの握り方を見るだけでも、その人の運転スキルはある程度わかるものだからだ。どんな分野にも共通することだが、何かを操作したり、運動をするときに、肩に力が入っているのはビギナーの証拠。クルマの運転でも同じで、運転が苦手な人は肩に力が入って吊り上った状態になっているケースが多い。 そういう人はハンドルを切ったときに、脇が開き、肘が横に突き出している場合が多く、明らかに力み過ぎ。いわゆる肩肘が張った状態というのは、力んで余裕がない証拠で、余裕がないと操作が一呼吸ずつ遅れて、ギクシャクした走りになってしまう。
さらに細かく見ていくと、ハンドルを切ったときに肘が上がってしまう人は、手首が固い証拠。原因は、ハンドルを強く握り過ぎてしまっているためで、人間にはモノを握ると身体が固まるという習性がある。これを運動科学の専門用語で「把捉性拘束」というのだが、握れば握るほど強くなるため、ハンドルは握力ではなく接触面積を増やし、密着度を増すことでホールドするようにするのがコツだ。 ハンドルを握りしめてしまうとクルマから発する情報、タイヤからの情報をキャッチしづらくなるので、どうしても運転が雑になってしまう。運転の達人は例外なくハンドルを握りしめたりせずに、手首も柔らかく使えているわけだ。 有名な幕末の侠客、清水の次郎長は「実戦のときは、自分の刀で相手の剣の切先をはじいてみるといい。おおかたの奴は腕が石のようにカチカチになっているので、そういうヤツは難なく倒せる。しかし、弾いてみた相手の切先がふんわりと動くようなら本物の遣い手なので、一目散に逃げちまうこと」と述懐しているが、力みとスキルの関係性は、刀の使い方にもハンドルさばきにもまさに共通している。 したがって運転の上達を目指すには、まずは肩の力を抜くこと。そして運転前や運転したあと、できれば運転中にもときどき思い出して、手首をプラプラ・プラプラと軽く振って、手首を中心に、手の中の手根骨・中手骨、そして前腕までを脱力させるのが一番の近道といえるだろう。
肩、肘、手首の力が抜ければ、リラックスして、周囲の状況がよく見えるようになる。クルマの性能に負けないように、自分の身体もチューニングして、ハンドルの握り方を見ただけでも「おぬし、やるな」といわれるように腕の立つドライバーを目指したいものだ。