試練を乗り越えるためのひと工夫
流行り廃りの激しいクルマのドレスアップ。単なるトレンドに加えて法律の緩和や強化もあり、ひと昔前によく見たパーツやカスタムが、絶滅危惧種と化した例も枚挙にいとまがない。人によっては懐かしい思い出だったり、苦い記憶だったりする懐かしのメニューを紹介する。
車検に必須の”ホーンマーク”は手書きでクリア
昔はドレスアップだろうとチューニングだろうと、クルマ好きの大半が交換していたのが「ステアリング」。近年はエアバッグを装備しているため、ステアリングを丸ごと交換することは減ったが(エアバッグ部分を流用する製品もある)、当時の純正は見た目や質感、操作性がイマイチだったため、ナルディやモモといった社外品に変更するのが流行した。
しかし、一部のノーブランド品には車検の際に必要な、ホーンのマークがなくて焦ったという例も。車検前に油性ペンでマークを手書きしたり、某胃腸薬のラッパのマークを貼ることで難を乗り越えたものだった。また、シフトパターンの記載がない社外品シフトノブも同じく、手書きや別売エンブレムでクリアしていたのである。なお、現在でもホーンやシフトパターンのマークがないと車検クリアできないのは同じだ。
ヤン車の代名詞だった”フルスモ”もひと苦労
警察の取り締まりで姿を消したのは、運転席と助手席に貼ったスモークタイプの「ウインドウフィルム」。以前はヤンチャなクルマで『フルスモーク(通称フルスモ)』と呼ばれる仕様を多く見たが、アレほど遠目でも分かりやすい違法改造はなく、当然ながら警察からは槍玉に挙げられた(フロントウインドウと前席両サイドのガラスは透過率70%以上をキープしなければならない)。
そのための対策として「パトカー見たらウインドウを全開」という、いまとなっては笑ってしまうような光景が見られたもの。子供だましみたいに感じるかもしれないけど、対向車線からわざわざ転回して停止させられたり、雨の日は外で問答するのが面倒だったのか、条件によっては一定の効果があった模様だ。
ご近所への迷惑対策として多少の効果あり
続いて規制が厳しくなるいっぽうの「マフラー」だ。なかでも流行した砲弾型マフラーは『インナーサイレンサー』を使って排気音を抑制。夜な夜な峠を走った後は、近所迷惑を考えて住宅地手前にあるコンビニで装着しているシーンをよく見かけた。 ただし、現在はボルトやナットで簡単に脱着できるインナーサイレンサーは車検に通らず、2010年4月1日より後に生産されたクルマはそもそもインナーサイレンサー自体が禁止。見なくなった理由は保安基準の強化と考えていいだろう。
色味が問題だった灯火類カスタム
意外と多かったのは、ヘッドライトのバルブ戻し。一時期はドレスアップ効果が高いということで、青の色味が強いハロゲンやHIDのバルブ交換が大ブレイクした。2006年1月1日以降の生産車はヘッドライトの色は白と定められ、それ以前も白または黄なので青や紫はいつの時代であってもNG。バルブの色を理由に違反キップが切られることは少なかったものの、車検のたびに純正に戻して光軸を調整するという、面倒な作業がドレスアップ好きのルーティンワークとなった。 コレもヘッドライトの主流がLEDに移ったことで、ショー専用のデモカーなどを除いては見かけなくなった。また、テールランプをクリアやスモークの社外品に変えることも大流行。一部は反射板(リフレクター)を備えていない社外品もあったわけで、車検をパスするために両面テープで後付けするというムダな努力をしたもの。もっとも見た目は悪くなるので、車検後はすぐに外すのがパターンだった。
シャコタン車ならではの走行儀式
最後に、踏切など渡るときにバンパーや下まわりを擦らないための、通称『段切り』と呼ばれる走り方もあまり見なくなった。こういった行為が必要なのは極端にローダウンした車両。踏切だけでなく、コンビニの駐車場でも”段切り”ならぬ、斜め走りが必要だった。 いまでもカスタマイズカーのイベント会場でも見られる風景であり、なかには一時的にバンパーを取り外して入退場するツワモノも存在している。
このようにクルマのドレスアップにはオーナーのひと苦労もあり、それぞれがカーライフを楽しんでいたわけだ。合法的なカスタマイズが主流となったいま、これらのような光景を見かけなくなったが、いま思えば微笑ましく感じるのは筆者だけではないはず。くれぐれも周囲に迷惑をかけず、適度なドレスアップを楽しんで欲しい。