時代に翻弄されたSUV
スポーツ・ユーティリティ・ビークル、略称「SUV」が世界的なブームとなっている。使い勝手の利便性に富んでいるだけあって普段の生活からレジャーにいたるまで、もちろん仕事であれ、役に立ってくれるクルマだろう。とは言え、過去に登場したすべてのSUVがユーザーに受け入れられたはずもなく、一代で消えていったモデルも多々ある。振り返ってみれば何か分かることもありそうだ。
ホンダMDX
MDXは主に北米で販売されるラージサイズのSUVで、日本で販売されたのもカナダ製だった。エンジンは3.5リッターV6を搭載し、クルマ自体も駆動力配分がFF状態から前後50:50まで可変するVTM-4システムを採用するなど申し分なかった。
しかし約4.8mという全長はともかく、1955mmという全幅が当時の日本ではあまりに大きかったのも事実。時代がリーマンショックによる経済危機のあおりを受けてしまうこともあり、アメリカからの高級なブランド輸入戦略の「アキュラ」にも付随していたMDXは、幅広な車格に現れたエクステリア、インテリアとも高級でまだ日本には受け入れられず。それが失敗に終わった理由と思われてならない。
三菱チャレンジャー
三菱のチャレンジャーは、2代目パジェロをベースに創られたSUV。当時はディーラー網での販売車種の差別化がなされていたので、ギャラン店扱いはパジェロ、これに対してカープラザ店扱いはチャレンジャーとして立ち上がっていく。その差別化で、チャレンジャーは全長を若干短くし、2列シート仕様のクロカンSUVとなったのである。
差別化は分かるものの、若手であるチャレンジャーは苦戦。これまでに築き上げられたブランドイメージもあり多くの人にはパジェロの方が魅力的に見えたこともあって、日本市場では一代限りで姿を消した。
だが、チャレンジャーは海外で生き延びている。全長を短くしたことに当てはまったブランドとしてか「パジェロスポーツ」という名で、ロシアを始めアジア中近東南米と広く市場を拡大。生産拠点を世界各地の現地に移すその筆頭となったタイで、生産されている同型プラットフォームの「トライトン」をベースとしてロシアからパジェロスポーツが販売開始されたことによるが、パジェロそのものが日本での生産を終えたことを思えば、パジェロの落し子は世界で活躍しているということになるのだろう。
トヨタクルーガー
クルーガーはゴージャスなハリアーに対し、7人乗り3列シートを持つなど質実剛健なキャラクターを持つ兄弟車だった。2代目ハリアーと同時に3.3リッターV6ハイブリッドも追加されたものの、日本人にはゴージャスなハリアーの方が魅力的に映り、クルーガーは販売を伸ばせなかった。
その割に価格が安い訳でもなかったこともあり、海外では現在も好調なものの、ミドルクラスSUVの統合の流れもあり日本では「ヴァンガード」を後継車に一代限りで絶版へ。独自のキャラクター質実剛健は日本ではもう流行らないのかと思うと何か悲しいことでもあるが。
マツダCX-7
CX-7はハリアーをターゲットとしたミドルSUVである。全体的にシッカリしたクルマで乗り味はハリアーより上質、スタイルも十分スタイリッシュだったのだが。
日産スカイラインクロスオーバー
スカイライン初のSUV設定であるスカイラインクロスオーバーは、先代型となる12代目モデルのスカイラインをベースに、最低地上高を上げるなどしてボディをステーションワゴン的なものとした、車名の通りのクロスオーバーである。
また、スカイラインクロスオーバーが登場した2009年は、リーマンショックの直後。多くの日本人にはあまりに過剰な価格でもあり、このあたりも大きな原因となって低空飛行が続いていった。
スバル・クロスオーバー7
クロスオーバー7はスバル自社製のミニバンだったエクシーガを、ビッグマイナーチェンジを期に最低地上高を若干上げ、樹脂製のフェンダーモールを加えるなどしてエクシーガ全体をクロスオーバーとしたモデルだ。
クロスオーバー7をSUVとするのが妥当かはさておき、デメリットもなく悪路走破性が向上し、価格もリーズナブルというコンセプトがなかなか面白い存在のクルマだった。
しかし登場から9年が過ぎ販売低迷もあり後継車なく絶版となってしまった。
クロスオーバー7に変わる前からエクシーガは苦戦しており、そのことを考えればエクシーガのクロスオーバー化は費用対効果の高い延命策だったのは確かだが。