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【レーシングドライバーが解説】なぜ、スーパーカーは車体の中央にエンジンがある?

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TEXT: 中谷明彦  PHOTO: Auto Messe Web編集部

前後重量配分に優れた好レイアウト

 自動車のパッケージングには様々なスタイルがある。スポーツカーのジャンルでは、ドライバーシートの後方にエンジンを搭載する「ミドシップ(ミッドシップ)レイアウト」を採用するクルマが多い。スーパーカーがこうした車体のほぼ中央に、最も重たいエンジンが搭載するのは、走行性能を高めたいからに他ならない。Z軸(車体の重心位置を上下に貫く軸)回りの慣性モーメントを小さくすることができ、俊敏な運動性能を実現できるのだ。

「Z軸回りの慣性モーメント」というフレーズは古くから使われている。自動車は物理の法則に則って動く物体であり、走行時にGが発生し慣性力も生まれる。こうした事は高校の物理(今は中学?)で学ぶ事だが、クルマの動的特性に関連づけて説明することは少ないはずだから、一般の人には分かりにくい表現だろう。

 だが、自動車業界では開発、レース、ドライビングスクールなど多くの分野で常識的に使われる言葉なので、知らなかったという人はこの機会に知識として養っておくといいかもしれない。

 自動車は様々な機械、部品の集合体であり、その総和が総重量となる。部品の重さはそれぞれであり、最も重たいのがエンジンやトランスミッションといったパワートレイン。近年は、モーターやバッテリーを備えるPHVやEVも増え、相対的に重量は大きくなってきている。

 自動車には、そうした質量の中心となる「重心」があり、運動力学的な中心として存在するわけだ。人間の身体であれば、重たい頭、胴体、両腕、両足などの部位が繋がり、おへその辺りに重心位置がある。体操の選手がアクロバティックな運動をする時、この重心位置を意識して様々な運動姿勢を制御しようとするように、自動車の走行制御も重心にかかる各方向への動きを制御することが基本になるわけだ。

 先述の「Z軸回りの慣性モーメント」について。クルマの重心を基点として車体を上下に貫く軸を「Z軸」。前後の貫く軸を「X軸」、左右に貫く軸を「Y軸」、それぞれの軸を基に発生する車体の動きを「ヨー」「ロール」「ピッチ」と呼んでいる。

 コーナーで車体がロールするとか、荒れた道で前後にピッチングが起こるとか、コーナーでヨーの立ち上がりが早い、など自動車のインプレッション記事で表現される用語を理解するうえで必要不可欠な事柄と言える。

 スポーツカーが減り、燃費に関する記事や自動運転の云々など、こうした自動車の動的特性について書かれる記事も減少しているため「知らなかった」という読者は多いだろう。

 私が主宰しているドライビング理論(テクノロジー)アカデミーの「中谷塾」ではこうした物理理論に基づいた自動車の動的特性について解説している。僕が「理論派」と呼ばれる所以だ。

 話を戻すと「Z軸回りの慣性モーメント」が小さいとヨー方向の動きを起こしやすく、また収束しやすい特性になる。そのために「ミドシップ」は重たいエンジンやトランスミッションなどを車体の重心近くに配置する手法を取るのだ。

 ヨー(Z軸)の立ち上がりやすく収束もしやすければ、コーナーでステアリングを切り込んだ時に素早くノーズがインを向きリアタイヤも追従する。コーナー立ち上がりでヨーが直ぐに収まり直線加速状態に移行しやすいなど、速く走る上で好都合になるのだ。

 それゆえスポーツカー、スーパーカーの多くはミドシップレイアウトを採用し、F1やWECマシンなどもミドシップレイアウトが当たり前となっている。

 2トン近くもある重量級のクルマともなれば、本来運動性能が悪い。慣性の法則により動的アクションを起こしやすく、一度動き出すとなかなか止められない。軽量なライトウェイトスポーツが運転すると楽しく感じるのは、慣性質量が小さくアクションを起こしやすいため、俊敏な動的特性が感じられるだろう。

 ミドシップレイアウトを採用すれば、V12気筒のような重いエンジンを搭載する重量級のクルマでも、ヨー方向の動きはライトウェイトスポーツと同様に軽快になるというわけだ。

 少しは理解を深めていただけただろうか。こうしたクルマの動的理論に興味を抱き、さらに学びたいと思うなら「中谷塾」の受講をお薦めしたい。

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