法人の重役が愛用する高級セダンは外せない
1990年頃までは、日本の売れ筋カテゴリーは「セダン」であった。ところが今は、新車として売られるクルマのなかで軽自動車が37%を占める。次いでコンパクトカーが25%、ミニバンの15%、SUVの13%と続き、セダンは約9%だ。
セダンがマイナーな存在になる転換点は1990年代に訪れた。1989年の消費税導入に伴って自動車税制が改定され、3ナンバーサイズの不利が撤廃されると、各メーカーとも海外向けの3ナンバー車を国内にも導入。結果、ボディの拡大というよりも、デザインを含めた車両全体の持ち味が国内市場の好みに合わず、セダンが売れ行きを下げ始めた。
一方で1990年代の中盤には、セレナやステップワゴンなどのミニバン、デミオやキューブといった背の高いコンパクトカーが、合理的なクルマ造りで人気を高める。RAV4やCR-VなどSUVの初代モデルも、当時は手頃なサイズのボディに2リッターエンジンを搭載して好調なセールスを記録。セダンの需要は、ミニバン、SUV、コンパクトカーに流れて売れ行きを下げた。
ホンダの「アコードセダン」はこの点を反省して、1993年登場の5代目でボディを3ナンバーサイズに拡大、しかし、1997年に発売された6代目では、再び5ナンバー車に戻している。ただし、この時点で既にミニバンブームであり、1998年には軽自動車も規格を今と同じ内容に改定して売れ行きをアップ。アコードが5ナンバー車に戻っても、遅きに失した印象が強く、需要は回復しなかった。
そして、2002年の7代目では、再び北米仕様と同じ3ナンバー車に拡大したのである。
このような経緯でセダンは売れ行きを下げたが、今でも各メーカーともにセダンを用意する。2019年におけるセダンの1か月平均の登録台数は、少ない車種で見ると日産のシーマが13台、フーガは89台、シルフィは148台。ホンダのレジェンドは34台、アコードも88台にとどまるほか、スバルのレガシィB4も96台という具合だ。ホンダN-BOXが1か月平均で2万1125台、日産ノートが1万台弱を売るのに比べると、圧倒的に少ない。
売れ行きが低迷して国内販売を終える車種もあるが、これらのセダンを継続的に売る背景には、複数の理由がある。某セダン車の開発者によると「法人の重役が乗車する高級セダンは、生産を終えると、後になって大きな損害を被る心配が伴う」という。理由を尋ねると「重役の使うクルマのメーカーが変わると、ほかの社用車や商用車まで、そのメーカーに持って行かれる心配が生じる」と説明された。
つまり、重役が使う日産シーマが、トヨタのセンチュリーやクラウンに変わると、社用車として所有されているノート、キャラバン、NV150ADなども、同じくハイエースやプロボックスに切り替わる心配が生じるというわけだ。
開発者からは別の話も聞かれる。「フルモデルチェンジした時は、もっと多く売る計画だったが、セダンの場合は売れ行きが伸び悩むことも多い。それでもコストを費やして日本仕様を開発したわけだから、(一定の台数を売るまでは)簡単に終了できない」。
冗談半分に「伝統のあるクルマだから、終了するなんて、会社(重役の意味?)が許してくれない」といった話もある。確かに歴史のあるセダンは、いろいろな部署の人達にとって深い思い入れがあるから、開発者も大変らしい。
「重役とのコミュニケーションを取ることも、チーフエンジニアの大切な仕事」というコメントもあるなど、セダンとはメーカーにとって、そういう難しいカテゴリーでもあるわけだ。