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ハンドルの位置はどこが適正? 「チルトステアリング調整」を活用したいワケ

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TEXT: 御堀直嗣(Mihori Naotsugu)  PHOTO: Auto Messe Web編集部

軽自動車やコンパクトカーに採用されない現実

 しかし残念ながら、多くの軽自動車とコンパクトカーでは、チルト機構は備わっているものの、テレスコピック機構を省いている車種が多い。このため、正しい運転姿勢をとろうとしても、体格によってはペダルとハンドルの位置関係を十分調整しきれない。

 弊害として、ペダルが近すぎたり遠すぎたり、あるいはハンドルが遠すぎたりしかねない。

 ペダルが近すぎる場合、踏み間違いや踏み損ないをする危険性が高まる。ことに高齢になると、日常的に道を歩いていたり、階段の上り下りをしたりするときでも、足が十分に上がり切らず、躓きそうになることがある。同じように、ペダルを踏み替えようとして足が上がり切らず、踏み替えし損なう懸念が生じるわけだ。

 日本自動車工業会の調査によれば、昨年の軽自動車販売で65歳以上の購入が増えたという。しかしながら、一部の車種しかテレスコピック機構を採用しておらず、ペダル踏み間違い事故を起こしている懸念がある。

 ペダルが遠すぎる場合は、急ブレーキを必要としたとき、十分に減速しきれない可能性は高い。危険回避行動は、必ずしも速度を落とすだけでなく、瞬間的にその場から遠ざかる事例も考えられ、その際にはアクセルペダルを奥まで十分に踏み込めないと、加速が足りなくなることもあるだろう。 ペダルが近すぎたり遠すぎたりすることは、事故につながりかねないのである。

 同じことは、ハンドルが遠すぎることでもいえるだろう。ハンドルをしっかりと握れるように座席の背もたれの角度を合わせると、テレスコピック機構がないことによって背が立ちすぎ、腰が落ち着きにくくなる。体が安定しないと、ハンドルにしがみつくような運転になりかねない。しかし、背もたれを寝かせるとハンドルが遠くなってしまうのだ。

 それによって、危険回避のため急ハンドルを切らなければならない状況で、ハンドルを素早く、かつ十分に回しきれなくなる恐れがあるということ。障害物を避けきれず、衝突してしまう危険が高まる。緊急事態でなくても、ハンドルを切り込んで路地などを曲がる際に、手が届きにくいことから体を起こし、座席から背中が離れることを繰り返すこととなり、疲労度は促進。疲れが高じれば、注意力が散漫になり、見落としなどによる事故につながりかねない。 このように、ハンドルのチルトとテレスコピックは、安全運転や、快適な運転による疲労の軽減につながる重要な調整機能だ。それにも関わらず、自動車メーカーは原価優先で軽自動車やコンパクトカーに採用しない。

 いくら運転支援の電子制御装置を取り付けても、運転の根本といえる正しい運転姿勢をもたらす機能を、原価のために省略しているのが今の自動車メーカーの実態。人命を尊ばず、自己の儲けを優先しているといえるかもしれない。 自分の体格にあった運転姿勢が調整できるかどうかは、試乗をしなくても、販売店の展示車で確認はできる。新車にしても中古車にしても、購入の際には必ず確かめておくといいだろう。

 また、カーシェアリングやレンタカーなどを利用する際にも、正しい運転姿勢が安全の基本であり、ことに慣れない車種を運転するときには、走りだす前に意識して調節しておきたい。

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