人気のSUVは車中泊を想定していない
アウトドア派に絶大な支持を得ているのがSUV、クロスオーバーSUVだ。4WD(AWD)であれば、余裕ある最低地上高とともに、一歩先まで踏み込め、湖畔の悪路や、絶景のアウトドアスポットに続く獣道も安心して走ることができる。
現在のSUVはハイブリッド車も多く、重たくて燃費が悪いクルマとは一言では言えなくなったのも事実。トヨタRAV4のように、SUVユーザーの実際の使い方を踏まえ、後席よりもラゲッジのスペースをより重視したパッケージングも、アウトドア派には、かさばるキャンプ用品やスポーツ用品の積載に、大きなメリットをもたらしてくれる。
では、どんなクルマが車中泊に向いているのか?
後席からラゲッジスペースまでがフラットになればOK
基本的には後席~ラゲッジスペースがフラットになること。多少の凸凹があっても、普段は丸めてコンパクトに収納できるマットレスなどを敷くことで、ほぼ解消できる。
そして、そのスペースをベッドとして利用するには”身長分の長さ”、2人で横になるのであれば”2人分の横幅”が必要。家庭用のベッド、マットレスの寸法は、なんとか2人で寝られるシングルサイズで幅97cm、長さ197cmぐらいとされている。セミダブルの幅は120cmだが、そこまで車内に望むのは贅沢すぎるだろう。
実際に車内で寝てみると気付くことだが、フラットスペース、ベッドスペースを確保できても、アウトドア用品の荷物の置き場に困ることがある。前後席のフロア(足元)を利用するのもいいが、後席とラゲッジスペースをフラット化するために、ラゲッジルームを上下2段に分けられるボードがが備わっていると便利だ(車中泊の場合は上段を利用)。
つまり、下写真のようにラゲッジスペースのボード下段を荷物スペースとして使えるからである。
それでは、次のページで車中泊にオススメのモデルを紹介しよう。
純正アクセサリーの活用でさらに快適に
ホンダ・フリード+
そうした技アリのパッケージを持つクルマの一例が、コンパクトミニバンの2列仕様となる、クロスオーバースタイルの”クロスターグレード”を用意するホンダ「フリード+(プラス)」だ。
大容量ワゴンと呼べるフリード+の場合、後席格納時のベッド長は最大1890mmに達し、フロア幅1060mm、ラゲッジと室内がフラットにつながるハイデッキ状態の天井高は975mmもあるから、フロアにジャストサイズで敷ける。
ホンダアクセスが手掛ける純正アクセサリーの「ラゲッジクッションマット(幅1230mm、長さ1800mm、厚み30mm)を敷けば、まるでお座敷のように寛げ、2人の就寝が可能に。そのクルマが車中泊に適しているかの条件として、クルマのアクセサリーカタログに車中泊用品が充実しているか否かでも分かる。
まさに、フリード+はその好例。先述のラゲッジクッションマットのほか、外界と車内を遮断できる、ウインドウ全周を覆うプライバシーシェード、立ったままの着替えにも有効なテールゲートカーテン、ラゲッジの天井に設置するルーフラックなどが揃う。
トヨタ・シエンタFUNBASE
その点、グランパーグレードも揃える「トヨタ・シエンタFUNBASE」の場合も、純正オプションとしてFUNBASEセットがあり、エアスリープマットと組み合わせることで快適車中泊が可能。ユーティリティフックとシステムバー、ラゲージアッパーボックスの組み合わせで、足元(車内後部)の上に棚状の収納を設置できるのもうれしいポイントだ。
フリードやシエンタ(2列シートモデル)が車中泊に適していると聞けば、大型ミニバンならより車中泊しやすいと思いがちだが、そうとは言い切れない。アルファード&ヴェルファイアの上級グレードを見れば分かるように、VIPに対応する多人数乗用車として、贅沢なシートを奢る一方、フルフラット化は重視していない。
そうではない仕様でも、1-3列目席を倒して寛ぐスペースにアレンジできても、シート自体の座り心地、快適性を重視しているため、板の上にマットレスを敷くようなフルフラット化は期待できない。もっとも、介護ベッドの上半身部分を持ち上げたようなアレンジはできるから、仮眠するには問題ないだろう。
例外として挙げられるのは、VWのミニバン「ゴルフ・トゥーラン」。1座ごとに独立した2-3列目席を倒すことでフラットに格納できるため、フロア幅1030~1310mm、2-3列目席格納時の長さ1940mmもの広大なフラットスペースが出現する。ちなみに、SUVのVWティグアンなどでは、そうしたアレンジは不可能だ。
ホンダ・オデッセイ(プレミアムクレードルシート)
ミニバンで、2人限定ながら、快眠しやすいクルマと言えば、ホンダ「オデッセイ」の2列目席プレミアムクレードルシート仕様(キャプテンシート)だろう。
シートのふんわりとした寝心地もさることながら、170度リクライニング、かつリクライニングしても上体が前を向けるクレードル機能があるため、実際に熟睡した経験があるほど、寝やすいシートと言える。後席でのエンタテイメントシステムを楽しむのにも好都合。HVモデルにはAC100V/1500Wコンセントもグレードによってオプション、または標準で用意されている。
スズキ・ハスラー
意外なる車中泊対応車としては、スズキ「ハスラー」がある。そもそも最低地上高に余裕があり、4WDならグリップコントロールやヒルディセントコントロール、スノーモードまで用意するオールラウンダーな軽クロスオーバーSUVそのものだから、アウトドア、悪路に適しているのは当然、しかも前後席とラゲッジスペースをつなげるフラットアレンジが可能で、大人でも幅方向はともかく、無理なく真っすぐに寝られるスペースが実現できるのだ。
そのアレンジ性には裏話があって、ガンガン走るようなシーンで前席のサイドサポート性不足が気になる人は気になるかもしれないが、それよりも前後席のフラット化をあえて重視しているのが、新型ハスラーの開発陣の考え方なのである(拍手)。すでに説明したように、新型ハスラーもまた、アクセサリーカタログの内容から、車中泊にもこだわったクルマということが分かる1台だ。
どうしてもSUV一択と言うならば……
しかし、どうしてもSUVで車中泊をしたい……というなら、サイズ的に室内長に余裕があり、ほぼ真っすぐに寝やすいマツダ「CX-8」の2列目ベンチシート仕様がいいかもしれない。後席格納時のフロアは幅1015mm、長さは2m前後にもなるので、多少の凸凹はマットレスで解決すればOKだろう。
また、実際に車中泊をしてうれしいのは、AC100V/1500Wコンセント付きのPHEV、HVだ。例えば、三菱「アウトランダーPHEV」なら、後席格納時のフロアは幅1010mm、長さ1700mm程度。ヘッドレストを逆付けすることで枕代わりになって長さをかせげ、実質、身長173cmぐらいまでの人ならほぼ真っすぐ横になれそうだ。
頭を車両前側にすると、後席格納部分に角度がつくため、上体がやや持ち上がった姿勢になるが、むしろ逆流性食道炎予防になるという専門家の意見もあるから、完全に平らに寝るよりも好都合かもしれない。
いずれにしても、アウトドアや車中泊にこだわってクルマ選びをする際は、SUVやミニバンはもちろん、軽自動車だろうと、ショールームなどで実際にシートアレンジをしてみることが重要。居心地、寝心地、そして車中泊対応アクセサリーの有無を確認することが大切だ。
純正アクセサリーであれば、サイズもぴったり。ジャストフィットする機能的なアイテムが大いに役立ってくれるだろう。